この記事の目次
簡単なあらすじ
SPコミックス第30巻収録。米国に雇われている超人的スパイ、ジョー・アガスラックと、KGBの依頼をうけたゴルゴとの対決を描く。ソ連の軍事機密を盗み出したジョーは、極寒のアラスカを米国領へと突き進む。零下30度の世界では、近代的軍備では歯が立たない。焦ったKGBはゴルゴにジョーの暗殺を依頼する……。脚本:外浦吾郎
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「この話はなかったことにしてもらおう」?
ゴルゴファンの間でも特に評価が分かれるエピソードとして有名な本話。というのも、本話のゴルゴは、標的の婚約者を力ずくで犯し、助けを求める彼女の声の録音を使って標的を動揺させるという、シリーズ史上最も卑劣といえる手段を取るのである。
初期作品ならではの揺らぎとはいえ、後年確立されるゴルゴの美学や信念とはあまりに相容れない所業。「ゴルゴ・ナビ」でも公式自ら「問題作の一つ」と言ってしまうほどだが、個人的には、こうして愛読者の間で議論が紛糾すること自体、『ゴルゴ13』という作品の底知れない魅力の証であると思えてならない。

ゴルゴが普通の一流から超一流へ至る過程
賛否の分かれる本話だが、「ゴルゴが卑劣だからダメ」と切って捨てるのは単純というもの。本話はむしろ、ゴルゴという一人の男が、ただ殺すだけのプロから、技量と美学を併せ持ったプロへと脱皮する途上の話として考察価値があるのだ。
ゴルゴ13研究家の杉森昌武氏も文庫版の解説で「卑劣と言われようが(略)プロはどこまでもプロでなければならない」と述べているように、目的のために手段を選ばず行動できるのが「普通の一流」のプロ。その上で己のポリシーを貫くには超一流の技量が必要になる。本話のような経験の蓄積こそが、後のゴルゴを作ったのかもしれない。
ゴルゴが直接対決を避けるほどの男
今回の標的、「超人イヌイット」と呼ばれるジョーのキャラ立ちもなかなかのもの。釣り上げたアザラシの腹を裂いて手を突っ込み「あったかい、あったかい!」、生のまま内臓にかぶりついて「うめえっ、うめえ!」と高笑いを上げるその姿は、一度見たら忘れられないインパクトがある。
同じく極寒のアラスカを舞台にした『アラスカ工作員』では、KGBの殺し屋「隼のイエス」とゴルゴの対決が描かれているが、本話のゴルゴはジョーとの直接戦闘を避け、先述の手段に出ている。ホームにおけるジョーは、ゴルゴをも恐れさせる脅威だったことがわかる。

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東郷 嘉博

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