この記事の目次
簡単なあらすじ
SPコミックス第95巻収録。元スパイのギュンターは、任務によりラインハルトという男を殺害した過去を持つ。現在は自分がラインハルトを名乗り、新しい人生を送っていた。30年後、ベルリンの壁が壊されることに決まりギュンターは愕然とする。なぜなら、壁の中にはギュンターが殺した本物のラインハルトが埋まっていたのである……。脚本:ながいみちのり
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知られざる「リトル・ベルリン」の壁
本話発表の数ヶ月前の1989年11月、ベルリンの壁の崩壊は世界を驚愕させたが、実はベルリン以外にも東西で分断されていた地域があったことはあまり知られていない。それがドイツのバイエルン州とテューリンゲン州の境目に位置する「メドラロイト村」であり、本話には「メガラロイガ村」という名前で登場している。
冷戦当時は、駐留するアメリカ兵士から「リトル・ベルリン」とも呼ばれたらしい。本話では一足早くこの壁の取り壊しが描かれているが、現実にもその数ヶ月後に壁は取り壊され、現在は一部のみが野外博物館に残されているそうだ。
悲劇の象徴の「壁」が安全地帯という皮肉
東西分断に伴う多くの悲劇を経験してきたメガラロイガ(メドラロイト)村。本話冒頭でラインハルトの妻が「あんなもの、残したいっていう人がいるのかしら」と述べているように、多くの村民にとって「壁」は一刻も早く取り壊したい悲劇の象徴だったに違いない。事実、作中の住民投票では壁の取り壊しが決定しているのだ。
一方で、「ラインハルト」として生きてきたギュンターには、壁を壊されては困る事情があった……。この皮肉な対比が面白く、ごく短いページ数でありながら、一人の男の数奇な人生を巡るミステリーが楽しめる一作である。
依頼人との連携プレーで「亡霊」を葬り去る
今回のゴルゴへの依頼は、ギュンターが「亡霊」と称するラインハルトの白骨が壁の中から出てきた瞬間、その身元の証拠となる歯の治療痕を狙って吹き飛ばすというもの。これ以上にピンポイントな狙撃を数々成功させてきたゴルゴにとっては、狙撃自体の難易度はそれほどでもないが、依頼人との連携プレーが肝となるスナイプだったと言える。
至近距離で治療痕を確認したギュンターのハンドサインを受け、「亡霊」の抹殺に成功するゴルゴ。その首尾を間近で見届けたギュンターの、「本当の亡霊は私自身かもしれん……」というモノローグが印象的だ。
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東郷 嘉博
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