この記事の目次
簡単なあらすじ
ワイド版第51巻収録。火盗改方の役宅に出入りする呉服商・佐野屋。手代の信六は愚直なまでに真面目な性格で、平蔵夫妻に可愛がられていた。ある日、信六が店の品物を勝手に売りさばいたとして、町奉行所に捕縛される。しかも、本人が自白しているという……。平蔵は信六を救うべく調査を開始する。
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商売の方向性
信六と友七、二人の手代が起こした事件が話を展開して行くストーリーだ。信六は愚直なほどに真面目な商いをし、不器用ながらも誠心誠意努める事で客の信用を得るタイプだ。一方の友七は猪突猛進型で、営業成績を常に気にするタイプだろうか。
どちらの営業スタイルが商売上良い結果を生むのか、それは誰にも分からない。短期的には友七のように直接的な営業を掛ける方が利益が大きいだろう。しかし長期的に見た時には信六の営業スタイルがじわじわと功を奏してくる事が多いのだ。
友七の掛けた営業方法によってトラブルに見舞われた彼らの行く末やいかに。手厳しい若旦那の判断は信六にとってどのような結末を来たすのか、この部分は見ものだぞ。
売れなければ0円
いつの世にも贈収賄が引き起こす問題に憤りを感じる市民は多いもので、それは江戸時代でも現代でもそう違いはない。しかし直接的な金銭や物品の授受が問題になるだけであって、例えば毎日の訪問や綿密な営業活動によって得た信用ならば犯罪行為には当たらないのだ。
本作でいうところの出入り業者になる為に行った営業活動に問題はあったのだろうか。大家へと出入りする為には必ずや許可が必要と考えるべきだろう。どのようにして許可を得るのか、それは裁量のある人と信頼関係を築く事しかないのだ。今回の件は、行き過ぎた営業活動が起こした問題だと考えるぞ。やはり分かり易い金銭や物品の授受はクローズアップされやすいのだな。
時代によって、また職種によっては、食事を共にする場合でも奢られる事を禁じている物もある。営業礼賛だけではなく、新しい技術を開発したり素晴らしい商品を作り出す事こそが、商売の王道として認識される時代が来る事を願ってしまうものである。
商人の理想と現実
商売とは商品を売り、心を買っていただく。いつの世でも商人とはこうありたい物だが、なかなか難しい判断を迫られる時もあるな。信六のような人間を表す故事成語がある。“巧詐は拙誠に如かず”という言葉だ。言葉巧みに騙すような方法よりも、不器用だとしても心を込めて接する方が優れているという意味だな。
これが商売において必ずしも正解かは分からないのだが、市民感情という物は金のにおいを嫌う傾向にある事も間違いはないのだ。金のにおいを撒き散らす人を軽蔑の目で見る事は少なくない。
しかしながら金を持っている当人は、それらの感情を嫉妬と表現する事もある。この感覚の相違はどれだけ文明が進んでも埋まる事が無さそうだ。旗本の身分である平蔵は果たしてどちら側の考えが強いのだろう。その部分にも注目をして本作を読んでみると、また新しい発見があるかもしれないな。
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滝田 莞爾
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