この記事の目次
簡単なあらすじ
ワイド版第3巻収録。天才擦模師・お富が登場。鼻に大きなほくろがある女擦模がいるとの噂が平蔵の耳にはいる。いまは笠屋の女房に納まり擦模稼業からは足を洗っているはずのお富だったが……?哀しい擦模師の性を描ききった力作。
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現代にも通ずるお富の悪癖
万引きと言うと響きは軽いが、要は窃盗で、言うまでもなく犯罪だ。この万引き、食うにも困っての犯行や、あるいは子どもが行き過ぎた反抗期で手を染めるものというイメージが私にはあった。
ところがさまざまな研究によると、万引きのスリルや成功したときの達成感で依存症になってしまっている人が少なくはないのだという。万引き依存症の人間は万引きを止めたくても止められないそうだ。
この回に登場するお富は類稀なスリの才能と不遇な生い立ちの結果、スリを止められなくなってしまった哀れな天才スリ師だ。読後、お富のこれからの幸せを願わずにはいられない。
平蔵の温情が沁み渡る
最後の場面、平蔵はお富の指に流れ落ちる涙を見て切なげな表情を浮かべる。この表情は平蔵の心の暖かさが色濃く表れたものだと思う。
お富が女スリになったのは彼女の生まれ育った環境のせいであるし、一度は平凡な商人の平凡な妻に収まった彼女が再びスリを始めたのは昔の仲間に強請られたがためで、決して私利私欲のためではなかった。
平蔵はお富の過去と事情を知り、一度はお富を見逃そうとする。しかしお富はスリへの欲求を意志の力で抑えることがとうとうできなくなってしまった。平蔵はこの回に限らず弱い者へは温かい眼差しを向ける。仁義ある、男の中の男だ。
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鬼の平蔵の取り調べ
江戸時代は石抱きや笞打ちなどの拷問は正式な取り調べの手段として認められていた。鬼平犯科帳では平蔵は拷問の名手として描かれている。
とにかく厳しく締め上げながら、ふとした瞬間に甘い甘い飴をちらつかせたり、相手の弱みを的確に突いたりして強情な悪人も自白へ導いてしまう。この回でも七五三蔵を厳しく締め上げたが、すべて自白した七五三蔵は直後平蔵から温かい言葉をかけられ、神か仏のように平蔵を見上げる。
七五三蔵はきっと心を入れ替え、佃島の寄場で手に職をつけるだろう。辛い時は平蔵の言葉を思い返すだろう。拷問自体は現代では決して許されるものではないが、平蔵が悪を憎み、人を憎まない姿がありありと描かれるのが拷問シーンだ。
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大科 友美
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