この記事の目次
簡単なあらすじ
SPコミックス第149巻収録。中国による弾圧が続くウイグル自治地区。その教育部のリーダー、アッシジは人望があり将来を嘱望された人物だった。が、じつは中国共産党から差し向けられたスパイであり、ウイグル人に共産思想を植え付けることが目的だった。その事実を知ったウイグル人長老は、事故を装ってアッシジを抹殺するようゴルゴに依頼する……。
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偶然の復讐
ゴルゴの狙撃については後ほど語るとして、このエピソードで個人的に最も好きな点は、未亡人の養蜂家が自らも知らぬうちに夫と子の仇を討つ流れだ。
ゴルゴは養蜂家を捜し歩いたのだから、彼女の背景を知っていて声を掛けたというわけではないだろう。そもそもゴルゴは他人に同情して行動を起こすことはない。これはエピソードの中ではあくまで偶然だが、この偶然を作り出すことでエピソードに深みが出ている。
シナリオライターの奥行き
2022年現在でこそ、新彊ウイグルにおける人権侵害問題は多くの人がその問題を認知している。しかしこのエピソードは2002年公開だ。新疆ウイグルの人権侵害は1990年代には深刻化していたとされているが、その情報が中国国外に流れることはほとんど無かったという。
また、作中でも触れられる通り、911テロの影響から民族独立運動は独立を求める側が厳しい目で見られる時代だったろう。その状況下で新疆ウイグルをテロリストではなく、迫害される側として描くシナリオを提出したシナリオライターの見聞に驚きを隠せない。
人事を尽くして天命を待つ
この【ピンヘッド・シュート】は、そもそも鍼灸師が“亜門”(本来はやまいだれに亜)という後頭部のツボにハリを打たなければ成立しない。ゴルゴはスコープを覗き込みながら「やはりその治療に入ったか……」と独白するため、打つ確証があったり、亜門にハリを打たせるための誘導があったりしたわけではないだろう。
もし亜門にハリを打たなかったら…いや、そもそもゴルゴ13では、ゴルゴの運の強さ、引きの強さで依頼を達成する瞬間が少なくはない。ご都合主義と言えばそれまでだが、ゴルゴにおいては“人事を尽くして天命を待つ”という言葉がふさわしいだろう。
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大科 友美
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