この記事の目次
簡単なあらすじ
SPコミックス未収録作品。政治的な諸事情で国家として承認されていないため、EU加盟を阻まれる恐れがあるモルドバ共和国の苦悩を描く。愛国者・ストゥルザは自国内にあるにもかかわらず、ロシアが実効支配する「沿ドニエストル共和国」を割譲することで活路を見出そうとするが……。
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対ロシア関係で注目されるモルドバ
モルドバ国内のロシア実効支配地域である沿ドニエストル共和国を巡る、愛国者達の熱い思いが描かれる本話。この問題は、2年後に勃発したロシア・ウクライナ紛争とも勿論無関係ではない。旧ソ連が残した東欧最大の弾薬庫を擁する沿ドニエストルには、今もロシア軍が駐留し、ロシア当局はこの地をウクライナ軍が狙っているとのプロバガンダに躍起なようである(※)。
一方、モルドバ国内では親欧米路線が明確で、ウクライナ難民の受け入れも盛んなようだ。2022年3月、モルドバはジョージアと共にEUへの加盟を申請。その諾否は定かでない。
※出典:東京新聞『東欧最大の弾薬庫を抱えるモルドバにロシアが不穏な言動 「侵攻の恐れ」と分析するメディアも 』(2023年3月6日)
※出典:産経新聞『露「情報戦」舞台は平穏 沿ドニエストル侵攻の兆候なし』(2023年6月5日)
もはや空想の産物ではない音響兵器
沿ドニエストルのロシア軍に一矢報いるべく、自らの命を犠牲にした計画を進めるストゥルザ。その肝となる音響兵器は、作中でも触れられているように、既に多くの国でデモの鎮圧などに使用されており、もはやSF的空想の産物ではなくなっていると言える。
2016年には、在キューバ米大使館で正体不明の異音による体調不良が続出し、音響兵器による攻撃ではないかと話題になったこともあった。つい最近も、嘘か真か、プーチン大統領が音響兵器を連想させる「新兵器」の開発に言及したばかりであり(※)、世界は警戒を強いられるのかもしれない。
※出典:産経新聞『プーチン氏「新原理の兵器開発」と演説 軍事力誇示し欧米を威圧』(2023年9月13日)
リアの色仕掛けで役得のロンバルド
色仕掛けは本作でも多用される女性の武器だが、本話ではその籠絡の過程が生々しく描かれている。スパイでも娼婦でもなく政治家が本業でありながら、自らの美貌と肉体でロンバルドを落としにかかるリアの姿には、国の為に身を捧げる必死の覚悟が……いや、もとい、彼女も案外本気で楽しんでいたのかも? いずれにせよ、ロンバルドは何のお咎めも受けず、完全に役得である。
かたや、今回は濡れ場と無縁のゴルゴだが、珍しく敬語を使って「面接」に協力していたり、ストゥルザの命を懸けた依頼に感じ入るような表情を見せたりと、印象的な場面も多かった。
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東郷 嘉博
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