この記事の目次
簡単なあらすじ
SPコミックス第146巻収録。セスナで逃走中だったゴルゴは、追撃をうけて砂漠に不時着する。重傷を負い意識不明だったゴルゴを救ったのは、砂漠に一人暮らす女性・エミリーだった。看病しながらもゴルゴに体の関係を要求するエミリーは、回復して自分のもとを去ろうとするゴルゴに対し、狂気の本性を見せ始めるのだった……。
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ながい作品は名脇役の宝庫
本作を担当した脚本家・ながいみちのり氏は、短編の名手であると同時に名脇役メーカーでもある。『間違われた男』のトニー東郷、『神の手』のロペス、『最後の酒』のピーター、『未来予測射撃』のスミス、最近では『鳥を見た』のローズなど、「もう一度見たい!」と思わせる名脇役を挙げたらきりがない。
残念ながらこれらのキャラクターの再登場が叶ったことは一度もないが、ジャーナリストの深沢や新聞記者の梶本が5度も6度も再登場しているのを見ていると、もう少し“ながいキャラ”にもスポットを当ててくれたらなぁ…と思ってしまう。スタッフの皆様にはぜひ、“ながいキャラ”の再登場をご検討いただきたいところである。
さて、本作に登場するエミリーもそんな名脇役の一人だ。ゴルゴに関わったがために命を落とすのは、シリーズに登場する女性の多くが辿る運命だが、お決まりのパターンであるがゆえに読後に強く印象を残す女性は少ない。その点、エミリーがいまもって筆者の心に残っているのはなぜだろうか?
エミリーは“狂女”たりえるのか?
ゴルゴを愛するあまり、常軌を逸した行動をとりはじめる狂女たちを描き、読者の度肝を抜いた『プレイバック』『13年蝉の夏』『銀翼の花嫁』。筆者の独断で選出した「狂女3部作」であるが、この3作品に本作を加えて「狂女4部作」としないのには二つの理由がある。
一つ目は、前出の3作品に登場する女性たちが自らの異常さを認識していないのに対して、エミリーはしっかりと自己分析ができていて、「自分は異端者である」と語っている点。二つ目は、ゴルゴがエミリーに対して少なからずシンパシーを抱いていた節がある点だ。作中でエミリーは「わかっていたんだ、私に、ありふれた普通の生活なんて出来やしないって事くらい…」と告白し、それでも人並みの生活を求めざるを得ない自身の葛藤を吐露する。
愛や友情、精神的な苦悩とその克服の描写を旨とする“ながい作品”のなかで、本作は異色作に分別されることが多いかもしれない。しかし、このように人間の苦しみや心の葛藤に焦点をあわせた作品として見てみると、従来の“ながい作品”における伝統を踏襲したヒューマン・ドラマであることがわかる。この点も前出の3部作とは異なる点だろう。
「お前のような人間」とは誰であったのか?
ラストでゴルゴがエミリーに投げかける「お前のような人間を…俺は、もう一人知っている…」の名セリフ。ネット上ではその人物が誰であったのか様々な考察がなされている。その中に「ゴルゴ本人を指しているのではないか」というものがあり、筆者はこれに同意見である。ゴルゴが「お前のような女」と言わず「お前のような人間」と発言したところに、そんな意図を感じるがどうだろうか。
もしゴルゴ本人だと仮定した場合、殺人者として生きるゴルゴにも「異端者は人並みの幸せを求めてはいけないのか?」と葛藤し、もがき苦しんだ時期があったことを示唆している。そしてこの発言はエミリーに対して、なんらかのシンパシーを抱いていた証左でもある。これが前出の「狂女3部作」との決定的な違いであり、「狂女4部作」としない最大の理由である。
また、このようなセンチメンタルな部分をゴルゴ本人が吐露する場面はゴルゴ13半世紀の歴史の中でも例がなく、まさに異例中の異例のレアシーンと言えるだろう。小難しい政治モノに疲れてきた読者にぜひとも読んでほしい傑作短編として本作をお勧めしておきたい。ちなみに筆者が挙げる本作でのベストシーンは、跪いてエミリーの足を舐め舐めする脚フェチ東郷の場面ですよん。
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町田 きのこ
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