この記事の目次
簡単なあらすじ
SPコミックス第201巻収録。13年ぶりにゴルゴと再会した未亡人が、ゴルゴ欲しさに殺人まで犯してしまう。女の持つ狂気を、13年ごとに異常発生する“周期蝉”になぞらえて描く。ゴルゴが13年ぶりに彼女の前に現れた理由とは? 見えない依頼人の正体にも驚愕。脚本:ながいみちのり
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行き先は天国ではなく地獄では?
1時間のうちに一生を凝縮した『ジンネマンの1時間』の男同様、これは13年の歳月を一瞬にして燃やした女の物語である。夫・ロバートから「ただのお飾り」と罵倒された従順で依存的なシェリーが、ただ一度だけのゴルゴとの情事により豹変する。
13年後の彼女の表情に、過ぎた歳月と心の変貌が巧みに刻まれている。ロバートはゴルゴに「天国に行ったらシェリーとやり直せるだろう」などと寝言のようなことを言っているが、ゴルゴに出会ってしまった彼女は願い下げだろう。そもそも2人とも天国に行けると思っているところがお気楽である。
男だって不自由なこともある
欧米はカップル文化であり、ある程度の年齢の男性が独身でいると社会的信用も薄い。この点は女性より不自由である。ロバートは同性愛者なので妻は体面上の存在だった。『マイアミの奇跡』のグロリアのように、若い男と浮気すればよかったのだが、夫婦として愛情を求めていたシェリーは生ける屍のようだった。
そんな彼女の変貌には驚く。『銀翼の花嫁』をはじめ自分が向けた銃口に躊躇なく身をさらした女はシェリーだけではない。惚れた男のためなら生への執着など潔く捨てられる、女という生き物をゴルゴはうらやましく思うかもしれない。
神は与え、そして奪う
成長し脱皮した蝉は、わずかの間でも自力で空を飛翔するが、抜け殻は風まかせに翻弄されるだけだ。愛のない夫との生活に疲れ、酒に溺れる、蝉の抜け殻のような人生を送っていたシェリーは、ゴルゴとの邂逅により、自分の意志を持って「生きる」ことに目覚めた。脱皮した蝉は抜け殻へは戻れない。
それは彼女に平穏な幸福をもたらしはしなかったが、女としてあのまま人生を朽ち果てさせることを思えば、後悔はないだろう。ゴルゴは彼女に生命の輝きを与え、そして奪い去った。シェリーにとってゴルゴは、神に等しい存在だったのではないか。
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野原 圭
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