この記事の目次
簡単なあらすじ
SPコミックス第184巻収録。ハイウェイで妊婦の運転する車が事故を起こした。偶然、現場に居合わせた医師のジンネマンは、炎上する車内から妊婦を救出。医師としての経験を総動員して妊婦と子供を救う。が、じつはジンネマンは有名な悪徳医師で、ゴルゴの標的となっている男だった……。
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1時間に投影された医師の一生
安楽死はオランダ、スイスなど一部の国や州で、不治の病気による耐え難い苦痛がある場合に認められる制度であるが、日本ではまだ認められていない。本作は、病苦に悩む患者に、遺産と引き替えに安楽死させる医師・ジンネマンの心理ドラマである。このままのタイトルと構成で映画にも舞台にもなる秀作といえよう。
ゴルゴがジンネマンの眉間に照準を合わせてから1時間の出来事が、過去と現在、生と死、良心と不道徳が織りなす人生模様のタペストリーとなり、最後にゴルゴの銃弾が織物の真ん中を撃ち抜いてジンネマンの一生を完成させる。
死ねると思えば生きられる人間の不思議
安楽死については、宮下洋一著「安楽死を遂げるまで」「安楽死を遂げた日本人」に詳しく、特に後者に登場する日本人女性についてはNHKスペシャルという番組で、実際に安楽死する瞬間まで放映され、大きな反響を呼んだ。
病苦により何度も自殺を試みた彼女は、スイスの機関で安楽死が許可されてから精神的に安定し、病状も改善したというから不思議である。最近では精神的な病も耐え難い苦痛の範疇に入るか、議論されているらしいが、苦しみから解放されると思えば精神的に楽になり、一日一日を積み重ねて生きられる、という話もある。
ゴルゴの銃弾が導くのは天国か地獄か
ゴルゴはなぜ1時間もジンネマンを狙撃しなかったのか不思議に思う読者もいるかもしれないが、おそらく自分の狙撃により思わぬ事故が起き、後続の車が巻き込まれることを避けたのだろう。さらにその車が自損事故を起こし、女性が瀕死の状態になっている、その瞬間に狙撃すれば彼女の関与が疑われるかもしれない。
だから救急車到着後、あえて証人が存在するときに実行したと思われる。医師としての良心を取り戻したジンネマンに待っていたのは、皮肉にも究極の安楽死だった。銃弾が彼を導くのは天国か地獄か、それはゴルゴにもわからない。
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野原 圭
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