この記事の目次
簡単なあらすじ
SPコミックス未収録作品。戦時中、「虐殺人」のあだ名で恐れられたSS少尉・シュタイナー。彼は“ある事件”をきっかけに、温厚な別人格が出現し、そのまま大病院の院長として過ごしていた。そんなある日、自分が熱狂的なナチ信者の集会で演説をしていた事実を突きつけられ狼狽する……。
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ナチス関連で唯一の封印エピソード
ナチス時代の収容所での出来事を巡り、一人の老医師の衝撃の真実が語られる本話。ナチスやネオナチを題材とするエピソードは数多くある中、本話だけはコミックスへの収録を見送られている。
依頼人の発言にナチス擁護と取れる部分があるからとも、二重人格というデリケートな題材を扱っているからとも言われるが、正確な理由ははっきりしない。なお、件のナチスへの言及部分は、「事象の二面性」という表現でフォローされているが、それが本話の軸である二重人格にも掛かっているのが興味深い。ナチスはあの時代が生んだ最大の「影」だったのだ。

己の影に怯える老医師ハインツの苦悩
善良な老医師・ハインツと、彼と収容所で撃ち合って死んだはずのSS少尉・ハンス。作中、両者が同一人物と判明し、部下を射殺した過去を別人格で塗り替えていたことが発覚するくだりは衝撃的だ。自分の中の影に怯えるハインツの描写は、ジキルとハイドを彷彿とさせ、鬼気迫る恐ろしさがある。
その父を救うため、自ら方策を立て、恐らくは安くない費用を払ってゴルゴに依頼を出す息子の姿からは、ハインツがどんな半生を送ってきたかが伝わってくるようだ。ハンスの過去を封印した彼は、我が子に尊敬される立派な医師として生きてきたのだろう。
影の人格だけを殺す47年越しの弾丸
かつて多重人格と呼ばれた解離性同一性障害は、耐え難い状況による心のダメージを回避するため、その感情や記憶を別の人格として引き離してしまうことで起こるとされる。本人も認めているように、“虐殺人”と恐れられたハンスこそが、彼の元々の人格であったことは間違いない。
しかし、彼自身も心の奥底では、己の残虐な所業への恐怖や罪悪感に苛まれていたのだろう。そんな彼の心が危機回避的に生み出したのが、ハインツという人格だったのだ。その切っ掛けとなった鉄十字章を、47年越しに再び撃ち、ハンスの人格のみを“殺す”鮮やかな解決は見ものである。

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東郷 嘉博

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