この記事の目次
簡単なあらすじ
SPコミックス第21巻収録。能力はありながらも一介のスパイとして冷遇されてきたKGBの諜報員・イワノビッチは、祖国を裏切り二重スパイになることを決意する。ゴルゴがイワノビッチを抹殺するストーリーだが、狙撃されたあと息を引き取るまでに、イワノビッチが走馬灯のように回想する彼の数奇な運命にスポットが当てられている。
スポンサーリンク
スパイの過去を走馬灯のように描く短編
本話はゴルゴが一言も言葉を発さないタイプの短編であり、彼に狙撃される二重スパイ・イワノビッチの生き様を描く趣向になっている。
中盤では早くも彼の被弾シーンが描かれ、そこからは、死にゆく彼の過去が走馬灯のように回想されるというユニークな作りだ。倒れた彼の姿を描いたページでは、手塚漫画を思わせる定点視点のコマ割りが目を引く。
それにしても、今回は短編の作り上、ゴルゴの仕事は実に簡単に終わっている。難しい案件ばかりが読者の印象には残りがちだが、実は彼の仕事のほとんどはこのくらいあっさりしているのかもしれない。
哀れなスパイの境遇に読者も思わず共感?
さて、そのイワノビッチの過去だが、これがなかなか人間くさくて面白い。スパイとして祖国のために活動しながらも冷遇の憂き目に遭っていた彼は、その弱みに付け込まれて敵国の誘いに乗せられ、二重スパイに身を転じる。
読者としても、彼が上役から冷遇される姿を見ているため、なんだか彼の気持ちが分かってしまうような気がするのだ。実際、二重スパイになってからの彼は、前より活き活きと仕事をしているようにも見える。特に、閑職にある将軍から機密を盗み出すくだりは、自分自身の境遇と重ねて上手く将軍の心理を突いているようで興味深い。
祖国に使い捨てられたイワノビッチの悲劇
本話はイワノビッチの走馬灯がほぼ全てなので、引き続き彼の話をするが……読めば読むほど、彼は可哀想な男だ。元は炭鉱で働いていた彼は、国家秩序維持省の長官から有無を言わさずスパイに勧誘され、命を張ることになる。
ところが、その長官当人に結局気に入られず、徹底的に冷遇され、部下の一人も付けられないまま15年間も前線で酷使される。結局、裏稼業というものは、それこそゴルゴのような一握りの超有能な人物以外は、こうして哀れに使い捨てられる運命なのかもしれない。皆さんがイワノビッチの立場だったらどうするだろうか?
この作品が読める書籍はこちら
東郷 嘉博
最新記事 by 東郷 嘉博 (全て見る)
- ゴルゴ13:第601話『癒やされぬ傷』のみどころ - 2024年4月26日
- ゴルゴ13:第598話『モルドバの咆哮(さけび)』のみどころ - 2024年4月20日
- ゴルゴ13:第597話『幻滅のアトランティス』のみどころ - 2024年3月29日