この記事の目次
簡単なあらすじ
SPコミックス第207巻収録。石油と天然資源に恵まれたリドキスタンとの外交をめぐり、日本・中国・ロシアが火花を散らす政治外交モノ。アメリカの傘を離れ、リドキスタンとの独自外交を進める安保局長・吉村は、リドキスタンでの石油プラント建設に活路を見出だそうとするが……。
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日本とも関係を深めるトルクメニスタン
本話の舞台の「リドキスタン」は、トルクメニスタンがモデルと思われ、大統領官邸の外観も酷似している。永世中立国を掲げる同国だが、実態としてはロシアと中国の影響力が強く、大国間の板挟みに遭う複雑な立場は本話でも描かれている通りだ。
本話の前年の2015年には、当時の安倍晋三首相が交流推進のためトルクメニスタンを訪れており、本話での「安川首相」の訪問もそれを元にしたものと思われる。その後も、2019年の同国大統領の訪日をはじめ、互いに要人の訪問が続いており、同国内でも日本語学習者が急増するなど親日化が進んでいるようである(※)。
現実と重なるロシアという国の恐ろしさ
ロシアの政府幹部・ラスキンの依頼を受け、リドキスタンのマリコフ大統領を暗殺したかと思えば、今度は日本政府筋の依頼でそのラスキンを始末するゴルゴ。単身で護衛部隊を殲滅するゴルゴの八面六臂の活躍も目を引くが、それにもまして印象的なのは、ロシアという国の恐ろしさだ。
「元KGBの流儀」で敵対者を拘束したり、ゴルゴに依頼した吉村氏を報復で暗殺したりと、2016年発表のエピソードでありながら、さながら同国で今まさに起きている事態を予言したようでもあり……。現実がフィクションよりも酷いとは、誰も信じたくなかっただろう。
中露に睨まれた我が国はどう生き延びるか
リドキスタンの利権をめぐって睨み合うロシアと中国の間に、これまでになく強気に切り込んでいく日本政府。「海外で武力行使ができない我が国が使えるオプションは、限られていますからね……」と言いながら、ゴルゴの力を借りてラスキンを始末する吉村氏の姿には一種の頼もしささえ覚える。
が、その彼も最後はロシアに暗殺され、青ざめる安川首相の顔で本話は幕引きとなる。力を持たない我が国が、激動の世界情勢の中でどう生き延びるか。ロシアが本性をあらわにし、中国もキナ臭い動きを見せ続けるこの時代にこそ、避けては通れない課題だろう。※出典:日本経済新聞『トルクメン、日本語学習220倍』(2023年7月8日)
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東郷 嘉博
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