この記事の目次
簡単なあらすじ
SPコミックス第207巻収録。人類初の月面歩行は米国による捏造だった!? 「月面歩行の真相を暴露する」という脅迫状がホワイト・ハウスに届く。イタズラだとして取り合わない米国だったが、動画共有サイトでアームストロング船長本人が「月を歩行したことなどない」と語る動画が拡散され……。
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陰謀論を利用する「ウォール街の魔女」
今も一部で根強く主張されている「アポロ計画陰謀論」。これに対する手っ取り早い反論の一つに、「数十万人に及ぶ関係者に一人残らず口封じをさせられるはずがない」というものがあるが、本話はそれを逆手に取り、月面着陸の張本人であるアームストロング船長自身が「口封じ」を破ったという話から始まる構成が鮮やかだ。
そのインタビュー映像の捏造を巡る騒動の黒幕が、株価の操作で一儲けを企む女性投資家というのも興味深い。宇宙開発が国家間の対立の武器とされる時代が終わり、個人の金儲けの道具になる時代となった象徴かもしれない。
無理を引き受ける代償は依頼人の協力?
アメリカ国防総省から黒幕の抹殺を打診され、一度は標的が不明であることを理由に断る素振りを見せながらも、責任者の懇願を受けて依頼を引き受けたゴルゴ。その引き換えにというべきか、超音波センサー等を用いた標的の位置の把握を、有無を言わさず手伝わせているのが印象的だ。
そうした協力が得られない状況でも、ゴルゴなら手段を尽くして依頼を遂行したには違いない。だが、利用できるものは依頼人でも利用するのも、ドライでスマートな彼の流儀ということだろう。余談だが、標的のアレクシアとルークの濃厚なベッドシーンも、ややシュールで必見である。
数年でさらに進化を遂げた映像合成技術
半世紀前の映像の捏造を主張するアポロ計画陰謀論をテーマとする本話で、最新の映像編集技術がカギとなっているのは面白いが、さらに本話から数年を経て、ディープフェイクの登場が世間を騒がせることとなったのは特筆すべきだろう。
本話の時点では、捏造といっても実在の映像に手を加えるに過ぎなかったが、今日のAI技術をもってすれば、本人の外見や音声のデータをもとに、存在しない映像を一から作り出すことさえ出来るのだ。かつては証拠物の代表だった「映像」に関し、まず偽造を疑ってかからねばならないとは、恐ろしい時代になったものである……。
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東郷 嘉博
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