この記事の目次
簡単なあらすじ
SPコミックス第207巻収録。縄文文化の研究者・藤山は、恩師である但馬と土器に対する修復をめぐって意見が合わない。そんななか藤山は、海外のオークションで日本の縄文土器が高額で取引されていることを知る。藤山は過度な修復を容認する但馬が、土器の横流しに関わっていると推理する。
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土偶は見た。欲にまみれたドロドロ
「まったく、私たちが食べ物をおいしく食べようと思って楽しみながら作った容器を、やれ国宝だの美術品だのと馬鹿馬鹿しい。人間はどんどん堕落して自分たちでは何一つ生み出そうとはせず、他人の褌で相撲を取ろうとするばかり。
「ああヤダヤダ」但馬とアランが口論する場面で登場する土偶からはこんなつぶやきが聞こえてきそうである。縄文時代の古代ロマンに満ちた内容かと思いきや、金と欲にとりつかれた哀れな現代人の物語である。悪魔の申し子のようなアランは、2人の顛末を知っても、フンと鼻を鳴らして別の獲物を探すだけだろう。
原始時代は贅沢三昧
哲学者のジャン・ボードリヤールは「消費社会の神話と構造」の中で人類史上最も浪費が著しいのは原始時代だと記述している。食物が保存できないので大量に食べ残すからだ。もちろんその後、他の生物が始末するので環境負荷はゼロである。縄文時代もそれに近かったと思われる。
但馬がいうように狩猟文化だった縄文時代は貧富の差がない。それを証明するのが「マタギ勘定」である。猟師であるマタギが共同で獲物を捕らえた場合、年齢・経験・役割に関係なくすべて平等に分配することになっている。農耕は罪深い社会を作ってしまったようだ。
古代ロマンはお金の香り
ゴルゴの銃弾と掛けて金と解く、その心は、幸せを運ぶことはない。『燃える氷塊』の唐沢教授など良心の塊のような学者もいるが、欲の前には但馬のように堕ちていく学者がほとんどではなかろうか。
アルバイトをしながら純粋に学問を追求し、悪魔に魂を売ろうとしない藤山のような存在を生かして研究の裾野を広げる方策を考えなければ、すべての研究は欲に飲み込まれてしまうだろう。縄文人が火を発見したのは、もしかしたら雷がきっかけだったのではないだろうか。そして縄文人の怒りに触れた但馬はその雷により裁かれたと思われてならない。
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野原 圭
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