この記事の目次
簡単なあらすじ
SPコミックス第125巻収録。カンボジアの木材ルートを日本のヤクザに横取りされた日本の商社が、ルート奪還のため現地に乗り込んできた。密林でポル・ポト派のゲリラに捕らえられてしまった商社マンたちは、そこで行方不明となっていた同僚の只見を発見する。只見はヤクザと結託し、ゲリラ相手に木材密輸の仕事を請け負っていたのだった……。
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ゴルゴ、絶体絶命のピンチを救ったのは何?
収奪、金、欲にまみれた人々のすさまじい物語である。カンボジア界隈の密林については、日本の香道をテーマにした『香りの宝石』で「香」の原料に関するダーティな話が紹介されているが、今作は寺社仏閣に使われる銘木の熾烈な奪い合いである。
村越らとともにゲリラに捕らわれ、特殊部隊の隊員が半日で錯乱した恐ろしい「虫責め」にあうゴルゴ。脱出は可能なのか。数ページ前にアップで描かれていた物体があり、その理由が疑問だったが、ここで納得する。最後に黒幕の正体が明かされるが、陰謀の深すぎる闇に何ともやるせないため息がでる
人間は木々達に感謝したことがあるか
かつて日本では堅牢な建造物を造るには、陽の当たる南側には南斜面で育った木を使うという贅沢な時代もあった。建物だけでなくあらゆる調度品、燃料、心を癒す香に至るまで、人は木と豊かな関係を作ってきた。
しかし資本主義により「金の成る木」となって以来、ひたすら伐採にいそしみ、戦後価格の安い外材が輸入されると、国内の森林を育てることを怠った。ヴァイオリンの名器ストラディバリは樹齢300年以上の楓の木で作られている。あの美しい音色は木と時が響きあう声なのだ。私たちは木々達に感謝の一片も捧げたことがあるだろうか
親愛なる兄へ、妹より愛を込めて贈ったのは
只見が村越を利用し、裏切った理由は、父親を自殺に追い込んだ原木への復讐だという。しかし父親の死は、リスクの高い原木の売買システムの問題であり、原木に罪はなく、いわば勘違いの八つ当たりである。只見の受けた銃弾は、妹・菜穂子が、たった一人の肉親である兄への切なる想いである。
自らの手で兄を葬った菜穂子の永遠に続くであろう悲しみに、只見は手を合わせて謝罪しながら、あの世へ行かねばなるまい。カンボジアの虐殺事件、ゲリラによる支配など、遠い国の出来事と思いがちな問題だが、決してそうではないことを教えられる。
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野原 圭
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