この記事の目次
簡単なあらすじ
SPコミックス第85巻収録。香港に拠点を置く地下組織「14K」は、保守党の長老・黒井を窓口として日本進出のチャンスをうかがっていた。香港返還を目前に不安分子は排除しておきたい中国中央調査部は、14Kの首領である陳の抹殺をゴルゴに依頼する……。
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『禿鷲伝説』にも登場した昭和の妖怪
本話に登場する政界の大物・黒井信介翁は、続く86巻収録の『禿鷲伝説』にも登場している。名前や外見からして、モデルは本話発表の2年前に世を去った元首相の岸信介で間違いない。「昭和の妖怪」と呼ばれた彼の老獪な存在感は、フィクションの中でも存分に発揮されている。
尚、SPコミックスでも文庫版でも収録順は本話→『禿鷲伝説』となっているが、実際の発表順は『禿鷲』の方が先であり、本話はその続編といえる作りになっている。『禿鷲』の依頼人であった黒井翁の正体は、本話を併せて読むことで初めて見えてくるのだ。
今も香港を牛耳る巨大マフィア「14K」
本話で描かれる香港の地下組織「14K」は、名前も含めて実在のもの。香港マフィアのネットワーク「三合会」に属し、1990年代には世界最大規模の犯罪組織とも称されたという。現在も活動は続いており、2019年にも市民襲撃事件で逮捕者が出ている(※)。
なお、香港といえば、富裕エリアと貧困エリアの格差が有名だが、本話でも黒井翁の「奉仕される人間は山上に住み、奉仕する人間は海岸や山麓でうじ虫のようにうごめき働いている」という言葉で端的にそれが表されている。本話から30年経っても、香港の格差は解消していないようだ……。
※出典:香港BS『無差別襲撃で6名逮捕 警察はマフィア共謀を否定』2019年7月23日
当時も今もよそ事ではない中国の事情
バブル期のエピソードからは当時の世相をうかがい知れるものが多いが、本話で印象的な「地上げ」もバブルの象徴と言うべきもの。だが、本話はそれだけにとどまらず、香港返還を前にしたチャイニーズマフィアの日本進出という、もう一つのタイムリーな要素を話に絡めているのが面白い。
『偽りの五星紅旗』や『返還前夜』など、他にも香港返還にまつわる話は多いものの、本話は日本がダイレクトに絡んでいるだけあって、よそ事ではない臨場感がある。IT技術などで中国の勢いが無視できなくなった現在でも、改めて一読の価値があるエピソードだ。
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東郷 嘉博
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