この記事の目次
簡単なあらすじ
SPコミックス第178巻収録。世界最高のテノール歌手・ペルッツィは、絶頂期のまま人生に幕を下ろすため、ステージ上で最高の歌唱をしている最中に、自分を狙撃するようゴルゴに依頼する。しかし、ペルッツィの専属映像デザイナー・ヨシムラは、暗殺者の姿をカメラに収めようと画策する……。脚本:加久時丸
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自分の衰えを最もよく知るのは自分
プロとアマチュアの違いは何か。アマチュアは自分の好きなことだけ究め、楽しむことができるが、プロは常に顧客に求められるレベルの仕事を提供しなければならない。最高の歌手であるがゆえに、年齢とともに厳しい顧客の求める音がだせなくなって悩むテノール歌手エンリコ。
他人は気づかずとも衰えを最も実感するのは本人である。そこで彼は究極の選択を決意する。さすがオペラにも精通しているゴルゴは本場イタリアでどのような離れ業をみせてくれるのか。狙撃術もさることながら、作画の美しさとストーリーも楽しめる充実した作品である。
妖しの美しさ、ベネツィア
エンリコがベネツィアでゴルゴと接触し、依頼する場面が最高である。ベネツィアは仮面カーニバルの季節。ゴルゴも仮面扮装で登場するが、何とも妖しい魅力を漂わせ、表通りを一人歩いていたら、女性がひきもきらずに寄ってきて大変なことになっただろう。
街並みの臨場感や人々の衣装など、まるでヴェネツィア旅行をしている気分に浸れる。ゴンドラの船頭が多言語を操れるエリートの職業であることをエンリコに説明させているが、これも興味深い話であった。エンリコの過去の翳りが華やかな雰囲気の中で語られるというコントラストも絶妙だ。
禍福はあざなえる縄のごとし
老神父が「神は君にすばらしいものをお与えになった」という言葉をかけなければ、エンリコはメディオーリと母親の情事を目にすることはなかった。しかし同時に、この言葉により歌手として大成した。池波正太郎氏は小説の中で「自分が本当に打ち込めるものを見つければ、出自などささいな悩みは消える」と言っている。
この「打ち込めるもの」が天賦の才であり、エンリコにとって歌だった。蝋燭の炎は燃え尽きる間際、ひときわ大きく輝く。エンリコが命を賭した至高のハイCは、ゴルゴの銃弾によって最高にして永遠の輝きを得たのである。
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野原 圭
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