この記事の目次
簡単なあらすじ
SPコミックス第148巻収録。真面目で勤勉な中国人・劉。彼は勤務先の社長からも一目置かれ信頼を得ていたが、実は中国の産業スパイ組織のリーダーだった。会社の金属加工技術を盗み出していることがバレてしまい逃走する劉。公安を通じて依頼を受けたゴルゴは、劉が乗る装甲車仕様のリムジンを特殊な弾丸を使って狙撃する。脚本:ながいみちのり
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心温まる家族の風景に潜む罠
恐ろしくもせつない話である。東京の片隅にある小さな町工場。経営者・犬山は頑固だが技術は折り紙付きの男、少し頼りないおっちょこちょいの息子にしっかり者の娘、家族同様の従業員は真面目な好青年で娘は彼に恋をしている。
皆で囲む賑やかな食卓で、父親はこんな男なら婿にして家族になっても良いと内心思っている。昭和のホームドラマの舞台のようにほのぼのした雰囲気が漂うが、その裏では、国益を賭けた謀略が密かに画策されていた。日本政府から危機を救うべく依頼されたゴルゴだが、防弾ガラスで守られた標的をどう撃ち抜くのか。
日本の町工場は技術の宝庫
日本には高い技術力を持つ町工場がある。小規模だが、犬山のように職人気質で、ときに採算度外視で仕事をしてしまう。もし日本で自由に銃器を生産できるなら、その職人技はあのデイブでさえ一目おかざるを得ないほどになるに違いない。
アメリカのNASAから宇宙技術関連部品の試作依頼が来るほど、その技術は高く評価されているが、作中に経営者同士が語るように、その内情は決して楽ではない。彼らの技能や技術の保存は、国家として急務であり、それには、大企業が彼らから収奪するのではなく、支える側に回らなければならないだろう。
国益と情の板挟みになった父の苦悩
スパイは半分本気で相手に好意を持ち、誠意を尽くさなければ信頼を得られない。犬山は、劉に自分の技術を伝承しても良いと考えるほど信頼していた。だから自分の技術を生かして作った銃弾が、劉の命を奪うことに気づき、あえて劉に警告する。
娘の想い人・劉の裏切り、そして彼を死へ導くことに自分が手を貸した事実、墓場まで持って行かねばならないこの秘密を抱えたまま生きていく犬山の苦悩に胸が痛む。小国の小さな町の片隅で生きる家族のささやかな幸せを踏みにじってまで守る国益とは何か。『外交伝説の男』と同じ疑問が頭をよぎる。
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野原 圭
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