簡単なあらすじ
SPコミックス第94巻収録。年代物の貴重なワインを、日本人のヤナギダが競り落とした。それが面白くないワインオーナーのガイヤールは、ヤナギダはワインの味が分からないだろうと高をくくり、事前にボトルの中身をすり替えてしまう。しかしヤナギダは、有名ソムリエを招き試飲会を開催すると発表。一転して窮地に立たされたガイヤールは…。
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ワイン通もそうでない人も見逃せない
今作はゴルゴの動きが少なく、狙撃術の妙を見せるというより、ワイン業界の内実を見せる内容である。ゴルゴにしてみればそれほど困難なミッションではなく、標的が同じくワインである作品『神の滴』のほうが難易度は高いだろう。
世界を席巻していたジャパンマネーでフランス文化の象徴を買いあさる東洋人と、彼をだまして、ちゃっかりマネーを手に入れようとするフランス人。ゴルゴの視点からみれば、どっちもどっちではないかと思われるが、偽物まで作ってしてやったりのガイヤールが焦る様子は、まさに「策士策に溺れる」の一言に尽きる。

評論家の格付けは案外テキトーなのか
「ワインの味って実はよくわからない」「自分も同じ」というヤナギダとネゴシアンの会話が秀逸だ。よく日本でもワインを表してソムリエが「干し草の香り」とかひどい例なると「猫のおしっこの匂い」などと表現をすることがあるらしいが、彼らが本当にそんな匂いを嗅いだことがあるのか、甚だ疑問である。
評論家が毎年格付けを発表するが、中には謝礼と引き替えに在庫処分したいワインの格付けを高くする、という裏話もささやかれている。ヤナギダの方が自分に正直であり、その正直さが傲慢なガイヤールを窮地に追いつめる展開は痛快である。
ゴルゴのめずらしい哲学的な言動
ガイヤール自慢の最高級年代物ワインを味わったゴルゴが「傲慢の味は苦い」という趣旨の発言をするのだが、ミッションに直接関係のない哲学的言動は珍しく、それに対しガイヤールは「東洋人にワインの味がわかるものか」と激怒する。
しかし、東洋人と見下しながら、その人種に自社のワインブランド崩壊という最大の危機を救ってもらうべく泣きついているのだから、世話はなく、何とも自分勝手な話である。今回ゴルゴが撃ち抜いたのはワインボトルではなく、まさしく、この人種的優越感という、ガイヤールの傲慢だったのではないだろうか。

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野原 圭

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