この記事の目次
簡単なあらすじ
SPコミックス未収録作品。経済建て直しで守旧派と改革派が対立するキューバ。中国からの巨額借款が決定するが、その見返りとして、軍部が中国海軍の潜水艦基地建設の密約を交わしていた。キューバ・ミサイル危機以来の大事件を危惧した改革派はゴルゴに接触する。脚本:渡邉優
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ゴルゴは危険な暴走老人を止められるか
読み終わると「ああ、ウチの会社にもラモン将軍、いるんだよね。PCは使えない、人の話は聞かないし、二言めには、俺の若い頃は・・・と自慢話、成功体験から脱却できずに、いつまでも昔の方法に囚われて老害をまき散らす人が。ゴルゴに始末してほしいな」とため息をつく諸子もいるだろう。
革命が貧困から救ってくれたというラモンの気持ちも分かるが、彼は中国の怖さを理解せず、アメリカ国内に親戚のいるキューバ人の立場も考えない。「年の功」が頑固という老害により「狡猾」に変異して暴走するラモンの前に、ゴルゴが立ちはだかる。
困った大統領と一蓮托生はきっぱり拒否
カリブは明るく開放的なリゾート地である。同時に、グアンタナモ基地の内情を描いた映画『ア・フュー・グッドメン』の中でジャック・ニコルソンが「俺は毎日共産主義者をみながらメシを食っている」というセリフにもあるように、軍事的緊張を抱えた地域でもある。
アメリカ政府機関の面々が、ソ連崩壊後、中国の進出に神経を尖らせているにもかかわらず、肝心のリーダーが、自分の利益以外には何の興味も示さない、すがすがしいほどの自己中心男であり、危機感ゼロの状態に、業を煮やしてゴルゴに依頼するという設定に思わず同情してしまう。
ご都合主義に使われるマルクス
ラモンは「アメリカ帝国主義と戦う思想が共産主義だ」という。確かにわかりやすいがあまりに短絡的過ぎる。そもそも著作に関してはエンゲルスが、マルクスの思想に基づいて記した部分が多く、必ずしもマルクスの意を十分汲んでいたかは疑問である。
近年マルクス研究に新たな光を当てた斎藤幸平氏は、マルクスによる膨大な手書きメモを解読した結果、マルクスは晩年、環境問題に大変関心を寄せており、資本主義の収奪が続くことを懸念していたという。ラモンがもう少し頭を冷やして読書していれば、銃弾を受けることもなかったかもしれない。
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野原 圭
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