この記事の目次
簡単なあらすじ
SPコミックス第142巻収録。スリランカでは多数派のシンハラ人と少数派のタミル人の対立が激化していた。政府閣僚のなかで唯一のタミル人であるカナガシンガム大臣は、タミル人から裏切り者とされ、テロの標的とされている。カナガシンガムは自分の命を狙うメンバーの中に、行方不明だった息子・チャンドランの姿を発見する。
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父の情と嘘と狙撃
父親が決別した我が子の狙撃をゴルゴに依頼するというエピソードは割合あるが、このエピソードもそのひとつだ。この『タミルの虎』では、息子と話し合いで和解できれば狙撃は中止という条件がある。父は最後の最後に息子に和解を持ち掛け、息子は了承するがそれは息子の嘘だった。
しかし父はすべてを見抜いたうえでゴルゴに狙撃の中止を呼び掛けたものの…というあらすじだ。ゴルゴへの依頼は依頼人自身だけがキャンセルできる。今回は依頼人によるキャンセル依頼だが、そこに嘘があったがためにゴルゴは依頼を遂行したのだろう。
ゴルゴ13における親子の情
先に言ったように、父が息子の狙撃を依頼するというエピソードはそれなりにある。不勉強なもので、ゴルゴのすべてのエピソードを読んだ、とは言えないが、自分が読んだ限り、ほとんどは息子が信念のために暴走を始め、父親が断腸の思いでゴルゴに頼るという流れで、父親が善良な息子を邪魔に思い…というのはあまり見ないようには思う。
ゴルゴ13は大人のためのハードボイルド作品であるから、善人もシナリオ上いくらでも死ぬし、ひどい目にも合う。しかし、親が子を謂われなく憎むエピソードは少ないのではないか。シナリオ制作上の暗黙のルールがあるのか、それとも人間は子を憎む生き物ではないのか…。いずれにせよ、親が善良な子を貶めるエピソードがあったとして、後味は良いものではないだろうが。
これも“不可能を可能にする狙撃”
ゴルゴが2つの嘘を見破ったのは、遠く離れた親子の会話を読唇術で知ったがためだった。ゴルゴ以外の人間ならば、依頼人がボディー・ランゲージで狙撃中止を表明すればそれを受け入れていただろう……否、受け入れざるを得ないだろう。なぜならボディー・ランゲージ以外の情報は無いのだから。狙撃の腕前だけでなく、視力を含めた身体能力が常人離れしているゴルゴだからこその狙撃だった。
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大科 友美
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