この記事の目次
簡単なあらすじ
SPコミックス第197巻収録。PTSDの統計資料作成をまかされたエドワードは、担当患者のジョンから「イラク戦争に従軍した際、謎の東洋人に脚を撃たれた」話を聞き、真相解明に乗り出す。しかし途端に上層部から「その件は忘れろ」と謎の圧力がかかってしまい……。脚本:香川まさひと
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息子を死なせたくない母親の執着
調査対象のPTSD患者・ジョンの受難を気にかけ、深入りしていくエドワード。その結果、「謎の東洋人に脚を撃たれた」話は、ジョンの母親が彼を戦死させず帰国させるため、ゴルゴに依頼していたという真相が明らかになる。
『ブラック・ジャック』の、息子を戦地に行かせないために無理なリハビリを強いる母親の話を彷彿とさせる一幕だが、PTSDの発症の可能性はゴルゴには予見できていただろうし、受任にあたって母親にそのことを確認もしたかもしれない。それでも息子の生存を望んだのであろう彼女。母の愛とは時に恐ろしいものである。

根性論の信奉者に因果応報の末路
本話のターゲットにして「悪役」ともいえるフォードは、自身は戦場に行ったこともない身でありながら、ジョンやエドワードのようなPTSD患者を軟弱者と見下す憎らしい男。心の病に理解を示さず、昭和日本さながらの根性論を振りかざす彼が、最後はゴルゴの攻撃で自身もPTSDになってしまうのは、まさしく因果応報の末路といえる。
ゴルゴへの報酬はジョンの母親が用立てたというが、エドワードが真剣にジョンの治療に向き合ったからこそ、母親も協力を申し出てくれたのだろう。ジョンも快方に向かったようで、ひとまずは溜飲の下がる結末だ。
ドローン兵器でも無視できないPTSD
本話のテーマであるPTSDは、最後のナレーションにあるように、遠隔操縦の無人機のオペレーターでも発症することが分かっている。本話以降に一般化し、『ゴルゴ13』でも何度か取り上げられているドローン兵器も、無論その例外ではない。
オペレーターがPTSDに見舞われるのも勿論だが、「敵兵に直接撃たれるより、無機質な戦争マシンともいえるドローンで前触れなく爆死させられる方が憎しみは強まる」という証言もある(※)。結局、いかなる兵器を用いようとも、画面を挟んで対峙するのが人間である限り、悲劇の連鎖は終わらないのだろう。
※出典:東京新聞「ドローンがまくのは憎しみの種…モニター越しの遠隔攻撃に携わった元CIA分析官はPTSDを発症した」(2022年12月29日)

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東郷 嘉博

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