この記事の目次
簡単なあらすじ
SPコミックス第143巻収録。IRAは活動資金の調達方法としてサイバー犯罪を展開。対する政府はサイバー犯罪の撲滅を宣言し、その切り札としてゴルゴに悪質ハッカーの殲滅を依頼する。ところがハッカーたちは得意の情報戦を駆使してゴルゴ抹殺計画を進行していた……。ゴルゴvs悪質ハッカーの頭脳戦! 脚本:夏緑
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IT社会の万能を問いかけるゴルゴ
IT社会は便利とつながっている。様々な情報を瞬時に得ることができ、銀行振込、宿泊予約、自宅の冷暖房設定まで、日常の面倒な作業が指先一つで処理できる。しかし、これら便利の裏側には「人新世の資本論」の斎藤幸平氏が指摘するように、自らの個人情報を自覚がないまま、知らない誰かに収奪されている危険性も潜んでいる。
そんな現代の課題を鋭くついた力作である。『ホリデー・イン・ザ・パーク』同様、通常冒頭にくる依頼の場面をエンディングに設定する構成により、謎を解き明かし、IT社会に潜む危険への警鐘を強く印象づけている。
ハッカーは傲慢な覗き屋
悪の首謀者・ローワンというキャラクターが外見・性格とも実に醜悪で憎らしげに表現されている。あのマーク・ザッカーバーグがフェイスブックを作ったきっかけは恋人に振られた意趣返しだったという話にもあるように、ITオタクに魅力的な良い女や良い男が多いというのは聞いたことがない。
ハッカーに至っては、早い話、覗き趣味のある人間であり、その対象が他人のパソコンか入浴シーンかの違いだけではないだろうか。始末に悪いのは、彼らはゴルゴが言うように他人を見下し、神になったかのような錯覚に陥り、何をしても許されると勘違いする鼻持ちならない傲慢さを振りかざすことである。
原始人は軽蔑すべき対象なのか
ローワンは、ゴルゴを「原始人」と侮蔑の念をこめて呼んでいるが、果たして原始人は見下すべき対象だろうか。身体能力の高さや、厳しい自然環境を生き抜く研ぎ澄まされた感覚と叡智は、現代人とは比ぶべくもなく、その意味で、ゴルゴは確かに原始人に近いといえる。
ローワンの最大の敗因は、生身のゴルゴに会ったことがないことだ。ゴルゴは現実の体験から、ハッカーという人間の性質を熟知しているが、ローワンは映像とデータだけで対処している。依頼人とゴルゴが交わすラスト数ページの会話は、IT社会への重要な提言といえるだろう。
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野原 圭
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