この記事の目次
簡単なあらすじ
SPコミックス未収録作品。中世以来つづく武器商人の家系・フォルカー家が軍事用のAI「メティス」を開発、メティスを使った“ゴルゴ狩り”に乗り出した。敵の行動を完璧に予測するメティスに対し、ゴルゴは銃職人デイブと天才ハッカー・ショーンの協力を得て乾坤一擲の大勝負を仕掛けるが……。
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ゴルゴ対AI、ニューヨークで真昼の決闘
冒頭、カウボーイハットの早撃ちCIAエージェントの「俺の生まれた町では男が勝負する時は……」のセリフが、ラストの究極の最先端技術と、人間同士の連帯で死力を尽くした人智との、古典的決闘スタイルへと繋がる素晴らしい構成。ゴルゴの20歩目は、AIメティスの前に無念の涙を呑んだ魂の鎮魂となるのか。
荒野の砂塵のごとく2人を隔てるニューヨークの雑踏の中、ゴルゴの戦闘パターンを完璧に解析した最強の敵・AIメティスとデイブ渾身作の銃をひっさげ、肉を切らせて骨を取るゴルゴの捨て身の策。息詰まる死闘が火花を散らす。
身を捨ててこそ浮かぶ瀬もあれ
かつてAIロボットに要人の警護テストをしたとき「この人物が敵に殺されないようにする」と指示したところ、AIが守るべき人物を殺していた。理由は「こうすれば敵に殺されないから」という子供の屁理屈だった。このロボットは廃品置き場で不思議そうに首を傾げていただろう。
AIには「自己犠牲」の概念はない。こういう実験を経て「主人も犠牲にしない」という学習をさせた。かたやゴルゴは「AIを倒さない限り自分の命はない」という決死の覚悟で臨んでいる。AIには自らの「死」を引き替えに「生」を得るという概念はないのだ。
AIに勝利したのは結局「愛」だった
カズオ・イシグロの「クララとお日さま」は、クララというAIロボットが学習を重ね、ついに人間のような心を持ち自分を犠牲にして人間を助けるのに対し、人間達は常軌を逸し、温かな感情や良心を失い狂気へと向かう近未来の物語である。フリッツも狂気の世界に生きている。
佐久教授の「君は人間に絶望している」という指摘があまりに鋭い。そして世界を救ったのは、人類への愛に生きたレベッカの協力である。「人はなぜ、何のために生きるのか」「人として生きるとはどういうことか」という、根源的な問いかけをみる読み応え充分な作品だ。
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野原 圭
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