この記事の目次
簡単なあらすじ
ワイド版第34巻収録。両親の墓参りで帰郷した五郎蔵は、若いころに可愛がっていた与吉と再会する。いまは堅気として暮らしているという与吉だが、両親にに聞くと分不相応な大金をもって里帰りするという……。五郎蔵は与吉が盗賊から足を洗っていないのではないかと推測し、助け舟をだすが……。
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大滝の五郎蔵、生まれ在郷へ
鬼平犯科帳に登場する密偵の中でも屈指の人気を誇る、大滝の五郎蔵が本作の中心人物だ。元々は本格派の盗賊頭として暗躍していた五郎蔵だったが、稼業に嫌気がさして足を洗っていた経歴を持つ。
その後、平蔵の密偵となった五郎蔵は『白い粉』の作中でおまさと夫婦になっている。本作では夫婦で生まれ故郷へと旅し、両親の墓参りをするシーンが印象的だろう。墓参りのためにお暇を願う五郎蔵に対して、快く送り出す平蔵の笑顔も素敵だな。
どうやら秩父の神社には火付けや盗賊を防ぐお札があるらしく、平蔵がそれを欲しているようだ。五郎蔵が平蔵へ持ち帰った、三峰神社の盗賊除け札に端を発するストーリー展開。過去の五郎蔵の心理描写もしっかりと読み解ける一作だろう。
秩父三社の一社、三峰神社
大滝の五郎蔵の二つ名が示す大滝とは、五郎蔵の生まれ故郷である大滝村が由来になっているのだ。大滝村とは現在の埼玉県秩父市、埼玉県の最西端に位置していた村だぞ。
秩父は深い山間に位置する場所で、秩父三社と呼ばれる寳登山神社、秩父神社、三峰神社の参拝でも人気があるのだ。本作で登場する三峰神社は、秩父山中に生息する狼を“お犬さま”として崇める、歴史のある神社だ。
元々は農作物を猪などから守る眷属として崇められていたのだが、そこから転じて盗賊や災難を防ぐ神と解釈されていったようだな。まさに火盗改メの長谷川平蔵としては、三峰神社から狼の護符を受ける事は公務上でも重要だったのかもしれないな。
かつての手下、与吉の本心
大滝村へ墓参りに帰った際に、五郎蔵は盗賊時代の手下である与吉と出会っている。本格の三ヶ条を守れなかった与吉に対し、足を洗うよう伝えて盗賊仲間から追い出した五郎蔵ではあったが、本心はきっと与吉に改心をして欲しかったのだろう。
残念ながら現在も盗賊稼業を続けていた与吉に対しての五郎蔵の気持ちは、あまりにも心へと突き刺さるのだ。若いころに甘い汁を吸ったが故に盗賊稼業を止められなかったのか、それを知る術はない。
しかし五郎蔵が若い与吉に足を洗わせたのは、故郷を共にする与吉に真っ当な道を歩んで欲しかったからではないだろうか。多くを語らない五郎蔵だが、与吉は五郎蔵の心を理解していったのではないかな、そう願いたい。少し心にもやが残りはするが、五郎蔵ファンであればぜひ読んでおきたい一作と言えるだろう。
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滝田 莞爾
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