この記事の目次
簡単なあらすじ
ワイド版第8巻収録。平蔵と左馬之助が居合を学んだ達人、小野田治平から左馬之助に縁談が持ち込まれる。相手は小野田の娘、お静。平蔵が後見人となって話を進めるが、お静には元亭主・高之助の影がちらつく。高之助は四年前のある事件に関係しているのだった……。
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一刀流の達人、岸井左馬之助
鬼平が若き頃、本所の鬼鐡と呼ばれていた頃からの剣術仲間の一人が岸井左馬之助だ。まさに竹馬の友というに相応しい高杉道場のライバルとは、お互いが歳を重ねた今でも非常に深い関係が続いているぞ。長谷川平蔵と同じく一刀流の免許皆伝である左馬之助は、その剣術の才を以て鬼平の窮地を幾度となく救っているのだ。
その活躍を描いたストーリーは数多くあり、『兇剣』『五年目の客』などの作品でも左馬之助の活躍を見る事が出来るだろう。剣術の達人ではあるものの、こと女性の事に関しては免許皆伝には程遠いようだ。顔を赤らめて平蔵に相談をする左馬之助には、こちらもつられて赤面してしまうな。
左馬之助に縁があり、小野田治平とお静という娘に会うべく、平蔵は左馬之助と共に府中へ赴くぞ。ところがお静には何やら悪の気配を漂わせる者との付き合いがあるようだ。お静は過去と向き合って、左馬之助と夫婦になる事は叶うのであろうか。鬼平と浪人盗賊とのアクションシーンも見ものなストーリーだ。
江戸時代の府中
多摩地域の中央にあたる府中へと歩む鬼平と左馬之助ではあったが、当時の多摩地域は実に興味深い地域なのだ。江戸からもさほど遠くない立地にありながらも、自然が豊かで様々な農作物が作られていた。府中と隣接する調布においても深大寺蕎麦が有名な通り、多摩地域ではそばの産地として積極的にそばが栽培されていたとされる。
もちろん、そばは荒れた土地でも栽培がしやすいという事で重宝された経緯もあるのだが。作中にて左馬之助と平蔵が蕎麦を手繰る場面がある。ここで登場する蕎麦は、“若草切”と呼ばれているが、この若草切という物は蕎麦の一種で、ヨモギを練り込んだ青緑の蕎麦の事を指すのだ。
蕎麦掻きに対しての蕎麦切りという言葉、今はあまり耳にしないが蕎麦好きの方は是非覚えておいて欲しい言葉だな。現在でも多摩地域では農業が行われていて、江戸野菜として名高い茄子やウドが栽培されており高い人気を誇っているぞ。
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あきらめきれなかった
お静と盗賊との繋がりが見え始めるにつれ、左馬之助の表情は曇って行くのが印象的だ。それほどまでにお静に魅力を感じていた左馬之助としては、やはりお静を簡単には諦められないのだろうか。
お静が過去に駆け落ちをした剣客、浅井高之助の登場により急展開を迎えたストーリー。女性を人質に取り鬼平たちの抜刀を抑えるとは卑劣な剣客であろう。
鬼平と浅井との居合による一騎打ちは目を見張る緊張感が漂っているぞ。不伝流居合術の勝敗の行方はぜひ本作を読んで頂きたい。そして、本作のタイトルになっている“あきらめきれずに”の本当の意味を読み解いてほしいのだ。
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滝田 莞爾
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