この記事の目次
簡単なあらすじ
ワイド版第11巻収録。祝言を挙げることが決まった忠吾は、独身最期の記念にと悪所通いに勤しむ。しかし、その最中に火災が発生。忠吾は放火犯に心当たりがあったが、悪所通いがバレるため平蔵には報告できない。はたして単独捜査に乗り出すが……。
スポンサーリンク
忠吾の嫁取り物語
何かとおとぼけキャラクターとしてイメージが強い同心の木村忠吾が、遂に嫁を取って身を固めようという話なのだが、まぁ忠吾らしい心理描写がキラリと光る一作に仕上がっているぞ。
結婚するからには浮気はしないと心に決めるものの、憧れの吉原には行ってみたい。懐には大金がある。まだ結婚をする前だから良いだろう、行ってしまえ。という、いかにもダメ男の忠吾らしい思考が微笑ましいな。初めての吉原においても、災難に巻き込まれてコトを達成出来ないあたりも忠吾らしいぞ。
火薬を使った揚屋の火災が、どうやら案内をしてきた船頭の常と関わりがあると睨んだ忠吾。誰にも相談できない場所で巻き込まれた事件を単独解決しようと奮闘するのだが……。
女敵討ち(めがたきうち)とは
親族や主君が殺害された場合に、その身内などが加害者を追って決闘する事を敵討ちと呼ぶ事はご存知かと思う。ただ復讐のように殺害し返すだけではなく、敵討ち免状ともいわれる許可証を申請して、正当な手続きを経た場合を敵討ちと考えるのが妥当なのだ。
常が女房のおときと西村の不貞を目撃した時、常はきっと怒りと悲しみに燃え上がった事だろう。西村の腕が立つことから、その場で戦う事の出来ない無念さを感じたな。
ところで少し変則的な敵討ちとしては、女敵討ちがある。特に江戸時代でも時代が進むにつれてその届け出件数も増えていった敵討ちで、つまり妻の不倫行為に対して妻と不倫相手を殺すという事だ。まさかと思う方もいるかと思うが、この女敵討ちはきちんと奉行所に届け出をして、正当な敵討ちとしても認められていたのだ。
届け出がなされた女敵討ちでも相当数に上るものの、無許可の女敵討ちも多かったようだ。そう考えると、江戸時代はまさに不倫も命がけだったのだな。
スポンサーリンク
全てを失った男の末路
江戸時代の放火は重罪で、例え未遂だったとしても火炙りの刑に処されるほどだ。吉原の揚屋に火を放った時点で、常はすでに恨みの力に押し潰され、生きる気力を失っていたのかもしれないな。
更に追い打ちを掛けるように妻の不倫現場を目撃だ。これではまともな精神状態を保てるとも思えない。犯罪者を擁護するつもりはないのだが、常がとった復讐行為はまるでイタリアオペラで悲観に暮れた主人公が復讐をするかの如く、劇的に描かれているのだ。
ほとんどのオペラは悲劇が故にバッドエンドなのだが、本作を“常の悲劇”という視点から見ると、非常に独特な世界観があって良い作品と言えないだろうか。花火師上がりの船頭、常がどのように劇的な復讐を遂げるのか、ぜひ本作で読み解いて欲しい作品だぞ。
この作品が読める書籍はこちら
滝田 莞爾
最新記事 by 滝田 莞爾 (全て見る)
- 鬼平犯科帳 漫画:第265話『同門の宴』のみどころ - 2022年9月9日
- 鬼平犯科帳 漫画:第48話『おしま金三郎』のみどころ - 2022年9月5日
- 鬼平犯科帳 漫画:第67話『殺しの波紋』のみどころ - 2022年9月1日