この記事の目次
簡単なあらすじ
SPコミックス第83巻収録。アフガン帰還兵のイワンは、戦場での疲労と恐怖を麻痺させるためにソ連軍が使用した麻薬の後遺症が原因で死亡した。戦場で麻薬が使われる様子を撮影したVTRをイワンから譲り受けた母・アンナは、西側に亡命しVTRを公開することでイワンの仇を討とうとするが……。
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ロシアの若者にもあった「プラトーン」
本話のタイトルにある「プラトーン」とは軍隊の小隊のことだが、ここでは1986年の映画『プラトーン』をオマージュしており、冒頭の解説(=ロバーツの没記事)からもそれが見て取れる。アメリカの若者達にとってのベトナムと同じく、ロシアの若者もアフガンの戦禍に狂わされていたのだ。
同じく冒頭で挙げられた『フルメタル・ジャケット』も、ベトナムの過酷な前線を描いた映画として名高いが、このタイトルは完全被甲弾という銃弾の種類から取られている。本話でゴルゴが用いるのが、それと真逆の氷の弾丸であるというのは面白い巡り合わせだ。
現場に証拠を残さない驚愕の殺害方法
老女アンナを証拠を残さず抹殺すべく、一計を案じるゴルゴ。彼がとった手段とは、病院に手を回して彼女の膝の水を入手し、それを凍らせた弾丸で彼女を撃ち抜くことだった。
「普通の氷ではダメなの?」と突っ込みたくなってしまうのが素人のサガだが、そうした発想を飛び越えてこそのプロの仕事なのだろう。
遺体に真水が残ると、氷の弾丸で殺したことが分かってしまうが、本人の体液ならば捜査員の発想の埒外なので発覚しようもない。氷の凶器を用いたトリックは古今東西のミステリに溢れているが、そのさらに一歩先を行く巧みなトリックだった。
善人も悪人もゴルゴの前には平等
悪人とは言えない人物が標的となることも多い『ゴルゴ13』だが、本話のターゲットのアンナは特に「えっ、この人を殺してしまうの!?」という衝撃が強い。
「モスクワ・プラトーン」の悲劇で息子と夫を失い、失意の中で果敢に亡命を試みる彼女には、どちらかと言えば救いの手が差し伸べられることを望む読者の方が多いだろう。
少し前の77巻の『ハリウッド・シンデレラ』しかり、読者が応援したくなる人物のほうがゴルゴの標的になってしまうというのは、ままあることでもあり……。そうした非情さもまた、本作の真髄の一つと言えるのだ。
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東郷 嘉博
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