この記事の目次
簡単なあらすじ
SPコミックス第188巻収録。不審火の捜査をしていた保安官モーリスは、それが連続放火事件であり、犯人は人気神父のバートレットではないかと推理する。数十年前、凶悪事件を防げなかった過去を持つモーリスは、捜査に妥協はしたくないと、バートレット逮捕に踏み切るが……。
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快哉と無縁の「正義」なき依頼
依頼内容に嘘がなければその善悪は問わない、というのがゴルゴの鉄則ではあるが、それにしても今回ほど「正義」のない依頼も珍しいだろう。主役のモーリスは、かつて凶悪事件を防げなかったことを悔やみ続け、その後は保安官として町の治安に貢献してきた善良な男。
その過去を教訓として定年間際に大手柄を挙げもするのだが、その彼が、被害者遺族の逆恨みによってゴルゴの凶弾に倒れてしまうのだ。ゴルゴとしては、積年の復讐心という点を買って依頼を引き受けたのかもしれないが……。彼がどういう存在であるか、改めて実感させられる短編である。
逆恨みからの復讐は誰も幸せにしない
ネット掲示板でも「後味の悪い話」として挙げられるほど、結末に賛否両論のある本話。依頼者自身も薬物依存から再起できるとも思えず、全くもって救いのない話である。この話に敢えてテーマを見出すなら、「誤った復讐の虚しさ」だろうか。
敢えて「誤った」と付けるのは、復讐という本懐を遂げて依頼人が満足したエピソードも数多くあるためだ。しかし、本話のような逆恨みを晴らしたところで、失った家族が戻るわけでも、自分の人生が開けるわけでもない。淡々と舞台装置に徹するゴルゴを通じて、その虚しさがありありと立ち上ってくるように思える。
後悔を忘れず事件に挑んだ保安官の執念
ごく短いページ数の中に、人気の神父の裏の顔を暴くサスペンス要素も盛り込まれた本話。かつて事件の兆候を見逃したことを悔やみ続けるモーリスが、「もう後悔はしたくない」と執念の捜査に臨むドラマは、聖職者が犯人という意外性も相まって、短いながらも読み応えがある。
なお、作中では目覚まし時計を用いた発火装置という古典的なトリックが用いられているが、本話から12年後の2023年、現実にも「探偵アニメを参考にした」という時限発火装置による放火事件が報じられたことがある(※)。同種の事件の再発がないことを願うばかりだ。
※出典:TBS NEWS DIG「『非常に危険な犯行で結果は重大』時限発火装置で放火した男(48)に懲役7年の実刑判決 広島地裁」(2023年9月15日)
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東郷 嘉博
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