この記事の目次
簡単なあらすじ
SPコミックス第196巻収録。ウマーンの政策調査室に勤務する父子の対立を軸に「政治とは何か?」をテーマに描く。息子のターヒルは、父であるカイルに古城の世界遺産認定を政策として提言する。しかし古城の地下に広大な油田が隠されていたため、ターヒルは世界遺産認定の妨害を受ける。
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理想だけでは生きていけない政治の世界
世界遺産の登録と油田の開発という対立する利害を軸に、理想にはやる若者と老獪な父のドラマが描かれる本話。キーパーソンとなるのはターヒルの部下に付いたラビーブという男で、食事をともにし理想を語り合った彼が裏でターヒルを欺いているとは信じたくないのが人情だが――。
ラビーブは本当に裏切り者なのか、それとも父が嘘を述べているのか……。彼の表情でターヒルが真実を悟った瞬間、ゴルゴの銃弾がラビーブを撃ち抜く。父の思惑通り、「政治は綺麗事ではない」という現実を目の当たりにした息子は、これで一回り大人になれたのだろうか。
初めて登録を抹消された世界遺産
本話の舞台の「ウマーン国」のモデルは勿論、中東のオマーン国。作中で語られる通り、かつては「アラビアオリックスの保護区」が世界自然遺産に認定されていたが、密猟でオリックスの生息数が激減し、さらに同国が保護区の90%削減を決定したため、2007年に登録を抹消されている。この時点でのオリックスの生息数は65頭、繁殖ペアは4組にまで減っていたという(※1)。
そもそも、アラビアオリックス自体、食用や薬用目的での乱獲により、野生個体の絶滅に追い込まれてしまった生物である。同じ過ちを繰り返している人類の業を感じざるを得ない。
現実のオマーンではクリーンエネルギーに希望
作中では油田の開発をめぐり、遺跡の爆破という暴挙までもが展開されるウマーン国だが、皮肉というべきか、現実のオマーンは今や「脱石油」にシフトし、クリーンエネルギーの開発事業に力を入れている。同国では二酸化炭素を排出しない「グリーン水素」の製造拠点が整備中であり、将来的にはヨーロッパやアジアへの輸出を目指しているという(※2)。
日本との関係も良好で、丸紅や電源開発(Jパワー)といった日本企業もオマーンのクリーンエネルギー事業に加わっている。新たな努力が実を結べば、自然遺産の登録が復活する日も来るのかもしれない。
(※1)出典:UNESCO「Oman’s Arabian Oryx Sanctuary : first site ever to be deleted from UNESCO’s World Heritage List」(2007年6月28日)
(※2)出典:東京新聞WEB「CO2出ない『グリーン水素』でオマーンに熱視線 世界最大級の製造拠点を整備中」(2022年5月18日)
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東郷 嘉博
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