この記事の目次
簡単なあらすじ
ワイド版第52巻収録。刀工・正宗の贋作が市場に出回る事件が発生。何者かが偽物を高値で売りさばいているのか? しかし贋作には本阿弥家が発行した折紙が付属していた……。調査に乗り出した平蔵は、いくつかの贋作の共通点は”網屋”の扱いであることに辿りつく。
竹馬の友、左馬之助
久々に岸井左馬之助が登場するストーリーだ。平蔵とは若いころから剣術修行を共にした親友で、お互いを左馬、平さんと呼び合う間柄だぞ。左馬之助は幾度となく平蔵の窮地を救っている。『兇剣』『五年目の客』などのエピソードで左馬之助の活躍を見る事も出来るだろう。
しかし随分と左馬之助の顔を見ていなかったせいか、だいぶ顔つきが変わったように思えた。どことなく優しそうな表情を持つ左馬之助ではあったが、本作の表情を見る限りではキリリと威厳を持ち合わせているように見えるぞ。所帯を持ったが故の責任感からなのか、それとも剣客として道場を任される身ともなると厳しさが顔に現れるのか。
鬼平ファンであれば鬼平と差しで飲む姿から、すぐに左馬之助であると分かるだろう。当然、左馬之助が登場するとなれば剣術に関わる物語となる。本作はどのような形でかかわってくるのだろうか、期待に胸を膨らませて読むのも良いかもしれないな。
物の価値を計ること
優れた職人の良い作品であっても、売れなければ0円なのだ。しかし精魂込めて作った作品がしっかりと評価され、職人が更なる名誉を手にいれる事は非常に難しい。価値を作り、価値を高める人間が必要なのは言うまでもないが、それ以上に職人に対するリスペクトが重要だと考えるのだ。どのような仕事でも言えるかもしれない。
汗水流して働く人間を蔑ろにして、物をただ左から右へと流す事をビジネスの本質と捉えてはならないと思う。ごまめの歯ぎしりと笑われようとも、職人のプロ意識にはもっと高い価値があるのではなかろうか。優れた日本刀を打つ太次郎の心は、商人にとってどのような価値として見出されるのだろう。
網屋の矜持
物語中盤までは悪徳な転売屋として印象付けられている網屋だが、物語の終盤でどんでん返しを見せるぞ。網屋の商売に対する心根には感服する事請け合いだ。鬼平と対峙しての堂々たる網屋の考え方、そして心根には圧倒されてしまう。そう、網屋が商売道具としていたものは贋作の刀ではなく、野に埋もれる優れた鍛冶屋だったのだ。
作られた物にのみ価値を見出したのではなく、その職人を守り、そして価値を高める事こそが商売の本道と見極めていたのである。まさに商人としての高い矜持を持つ姿を見せてくれたな。非常に晴々とした気分になるエピソードだ。見事なまでに綺麗な着地をする作品として、ぜひともお勧めをしたい。
この作品が読める書籍はこちら
滝田 莞爾
最新記事 by 滝田 莞爾 (全て見る)
- 鬼平犯科帳 漫画:第265話『同門の宴』のみどころ - 2022年9月9日
- 鬼平犯科帳 漫画:第48話『おしま金三郎』のみどころ - 2022年9月5日
- 鬼平犯科帳 漫画:第67話『殺しの波紋』のみどころ - 2022年9月1日