この記事の目次
簡単なあらすじ
ワイド版第12巻収録。同心・小柳安五郎を、元同僚の松波金三郎が訪ねてきた。昔、二人で捕縛した牛尾の又平の弟・虎蔵が、仇討ちのために江戸に現れたという。情報源は又平一味にいた女賊・おしま。おしまは過去に金三郎が裏取引をした際、関係をもった女だった。女の執念を鮮やかに描ききった一編。
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真面目一筋、小柳安五郎
火盗改メの同心にあっても、厳格かつ真面目な同心といえば小柳安五郎が挙がるだろうか。お役目に対しての心持ちも、そしてその勤務態度も良く、鬼平からは絶大なる信頼を得ているのだ。女盗賊と肌身を許し合った事が露見し、松波金三郎が鬼平にお役目を解かれたのが4年前。同僚としてもお互いに信頼していた小柳が松波を擁護するも、火盗改メの綱紀を乱す事は許されなかったな。
さて女盗賊と体の関係を持つといえば、同心の黒沢勝之助が「網虫のお吉」にて女盗賊と関係を持ち、最終的には切腹となっている。偶然とはいえ、この時の情事を暴いたのは小柳だったのだ。本格の盗賊を密偵に登用する事もあれば、盗賊と関係を持った同心を処断する事もある。鬼平の善悪に対する判断基準は常人には難しいのかもしれないな。なぜ鬼平は松波に対して厳しい処分を下したのだろうか。その部分に注目して読んで行くと、まことに興味深いストーリーなのだ。
ぜいたく品だった豆腐
松波と与吉の営む“豆腐酒屋”では、その名のとおり豆腐と酒が安価で楽しめる事が人気の秘密だったようだ。江戸時代の文献などを読んでみても、豆腐はごくごく当たり前のように登場する庶民の食べ物、といったイメージだろうか。しかし豆腐が庶民の口に入るようになったのは、江戸の中期以降と言われているぞ。江戸初期には、豆腐はぜいたく品なので農民は製造も禁止である、と御触れが出ていたのだ。
将軍の食事には豆腐料理が並ぶ事からも、豆腐が高級品であった事が伺えるな。特に三代将軍の家光には、毎食さまざまな豆腐料理が供されていたというから、相当の豆腐好きだったと推測できるのだ。一般的な庶民の口に入るようになった豆腐ではあったが、それも大都市に限られていたようで、現代のように全国的に日常的な食べ物となるまでには、まだまだ時間が必要だったようだな。
男と女の気持ち
松波としては事件の解決のために女賊のおしまと関係を持ったに過ぎなかった訳だが、当のおしまとしては本気で松波に恋をしていたのだろう。つまり女性側からすると弄ばれたと感じたはずだ。自らを弄んだ男性に対する強烈な復讐心こそが、本作のストーリーにおいて重要な要素になる。
鬼平に諭された松波も、女心を汲めなかった自分自身に対して反省の念もあったのだろうか。無下に女性を追い返していた松波が、おしまの猛アタックで心が動いたと見る事も出来る。男女の恋にきっかけは色々あれど、いつの時代も男女の熱い心だけは止められないものだな。
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滝田 莞爾
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