この記事の目次
簡単なあらすじ
ワイド版第53巻収録。捕らえた嘗役の五兵衛が、ある屋敷の見取り図をもっていた。どこの屋敷なのか五兵衛は吐かない。その見取り図を待っている盗賊団がいるはずだが……。一方、彦十の飲み仲間の八十吉は、道端で女を助ける侍に出会う。が、その侍がもっていた兎の印籠を見て、驚愕の表情を浮かべるのだった……。
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大番頭の素顔
絵に描いたような真人間の八十吉だが、人間だれしも過去には色々とある物だ。それは悪党に限った話ではなく、例え真人間であっても同じだろう。今でこそ大店の大番頭に収まっている八十吉も、どうやら敵を持っている身分と分かる。
鬼平犯科帳にも敵持ちや仇討ちに関するエピソードは頻発するぞ。時代劇では非常に人気があって分かり易いストーリーに展開しやすいからだろう。女性トラブルから敵持ちになって、方々を逃げ回る生活はさぞ疲れたろうと思う。
やっとの事で得た安住の地を八十吉は捨てるのだろうか、それとも命を賭して生活を守ろうとするのか。兎の印籠が八十吉の生活を追い詰めて行くストーリーは読み応えばっちりだ。
商人は甘くない
大番頭といえば主人に店の仕事を全て任される人間なのだ。さらに大店ともなれば、その責務や信頼度も凄く高いものになるぞ。江戸時代に商人を目指す場合には、一般的には小僧として店に入り、手代、番頭、と出世していく。
それは熾烈な出世競争で、脱落者も相当数いたと言われるのだ。そんな中、八十吉は7年という期間で大番頭にまで上り詰めたという描写がある。これは実際には難しい話で、どれだけ能力があったとしても武士と商人とでは求められる能力が違い過ぎるのだ。今で言うヘッドハンティングで他店から来た人間を番頭に据える事はあったらしい。
しかし武士として育ってきた人間が、いかに真面目と言えども大店の大番頭になる事は難しいだろう。もしかすると八十吉には、人知を超えた能力があったのかもしれないな。ならば大店の大番頭も、まぁ夢ではないか。
鬼平の温情ある裁き
鬼平犯科帳の魅力は何かと尋ねられた際にはこう答えているのだ。単純な勧善懲悪ではなく、例え悪者であってもその背景や心情を見抜く鬼平の姿が魅力の一つと。盗賊団の用心棒として逮捕されたのであれば、実際には問答無用で盗賊たちと同じ罪に処せられるだろう。
しかし鬼平が下す裁きには人間らしい心があると感じられるのだ。元盗賊を密偵として召し抱える事もまた、鬼平の温情判決がもたらす魅力の一つかもしれないな。ストーリーとしては登場人物へのフォーカスが分散している事もあってか、何を主軸に読み進めたら良いのか分かりにくい部分もある。
しかし結末に至るまでのスピード感と鬼平の裁きによって、ピリリと締まる作品になっていると思うのだ。鬼とも称される鬼平だが、もしかしたら仏平と呼ばれる日が来るかもしれないな。
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滝田 莞爾
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