この記事の目次
簡単なあらすじ
ワイド版第13巻収録。心優しき大工・和平の愛息・礒太郎が、紙問屋小津屋の悪計により首を括った。盗賊の助けを借り復讐を企てる和平。
だが盗賊の頭は、若き日の平蔵に稽古をつけていた一刀流の達人・松岡重兵衛だった……。
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青春の思い出はほろ苦い
第1巻収録『本所・桜屋敷』と同じく、平蔵が若かりし頃に通っていた高杉道場にまつわる出来事を絡めた回だ。本所~の方では平蔵と左馬之助の甘酸っぱい初恋を描いていたが、今回はふたりの苦い、若いころの恥部ともいえる部分に触れる。
この回のクライマックスで、松岡を居合で一刀両断にする平蔵が描かれる。このときの表情が何とも言えない。他の殺陣では平蔵は眼光鋭く相手を見据え、鬼気迫る表情であることがほとんどだ。
しかし今回はいかにも苦しそうで、悲しそうで、松岡を切ることが苦渋の決断だったことが伝わってくる。平蔵が道を踏み外さずに済んだ恩人を手にかける辛さがどれだけ深かったのかが判るようだ。
平蔵を見込み、あえて殺させた松岡
この松岡は若き平蔵を代稽古でこてんぱんに打ちのめしながらも「この長谷川平蔵、なかなか見どころがありますな!」と快活に笑う。左馬之助のこともあわせてみっちり仕込むと言っていたのだ。
それほどまでに見込んでいた若者が、金に目がくらんで盗賊の片棒を担ぎに現れたとなればどれだけの衝撃と悲しみだったろうか。もちろん松岡自身もいくら本格とはいえ盗人だ。大きな口は叩けない。それでも、ふたりへ向けた重い拳は師匠としての愛そのものだ。
松岡はなぜ平蔵の申し出を拒み、平蔵の刃に斃れる道を選んだのか。平蔵自身は死に場所を探していたからこそ、わざと切られたのだろうと数日ののち回想する。私はそれに加えて松岡自身の覚悟もあったのだろうと思う。盗賊に身をやつしたような人間がまっとうな道を歩くことはできない、という覚悟だ。密偵となった元盗賊たちの生き方も美しいが、松岡の生き様も悲しいが美しい。
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泥鰌の和助で2回泣く
平蔵が白州で和助に語り掛ける場面で涙を流さずにいられる読者は多くはないだろう。きっと現実の長谷川平蔵もこんな人情にあふれた裁きをしていたに違いない。だから今大岡という呼び名になったのだろう。
私はこの白州だけでなく、和助が証文を破り捨て、川に投げ込む場面でも毎回涙が出てしまう。繰り返し読んで結末は判っていてもだ。和助のコミカルな顔いっぱいに浮かぶ悲痛さが何度読んでも涙腺を緩める。
それにしても、和助の細工は屋敷のあちこちに仕掛けられていて、見ていて驚いてしまう。あくまでフィクションではあるが、平蔵の言う通りこの技術を多くの若者に伝えられれば、それは立派な息子への供養になるだろう。
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大科 友美
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