この記事の目次
簡単なあらすじ
第36巻収録。筆墨硯問屋・静好堂が賊に押し入られた。江戸城出入りの老舗だけに、捜査の進展がないことに叱責をうける平蔵。一方、高級料亭「美濃清」では謎の小間物問屋と密会する、同心・青木助五郎が目撃される。青木にはなにかと“黒い噂”があった……。
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手柄のために
同心の青木助五郎は、自らの手柄をあげる為に素性の善からぬ者と付き合っているとの噂だ。坊主憎けりゃ袈裟まで憎いという言葉の通り、鬼平を嫌う人からすれば火盗改メの役人すら憎いのかもしれないな。
ましてや出世争いや武家同士の意地の張り合いが絡んでくれば尚更だろう。実際には、江戸時代の捜査や探索は、現代とはだいぶ価値観が異なっていたそうだ。“二足の草鞋を履く”の由来は捜査の為に雇った岡っ引きで、博打打ちが博打の胴元を逮捕する、つまり職業柄の矛盾から来ているのだ。
ある程度の粗い捜査状況はあったと思うのだが、やはり同心たるもの清廉潔白であって欲しいと願ってしまうぞ。では、本作に登場する同心青木の噂の真相とは一体。鬼平犯科帳ワールドで展開される、江戸時代のオカルト物語と言えるだろうか、楽しみだな。
狐の嫁入り
平蔵が同心青木に悪い噂に絡む事実を確認した翌日、狐雨という天候に見舞われたといった描写があるぞ。狐雨よりも、狐の嫁入りという表現の方がしっくり来る方も多いだろうか。この話を辿ると、古来より伝わる民話や伝説に行き当たるのだ。
夜間に見られる明かりや火に関わる現象を怪火(かいか)と言うのだが、その中でも数キロに及ぶ長さで連なる物を狐の嫁入りと呼んだそうな。昔は結婚式の際に、花嫁が提灯行列を伴って嫁ぎ先へと向かう事が一般的だった事から、怪火が連なる様子を狐が嫁入りすると言われた訳だ。
様々な説があるのだが、晴れているのに雨が降った時には狐の嫁入り行列が行われている、とする説が有力かもしれないな。山頂での狐の嫁入りを麓の人々に見せないよう雨を降らせた話などもあるが、やはり狐は不思議な力を持っていて、妙な現象は狐の仕業として扱っていた当時の背景がよく見えるのではないだろうか。
生みの親より育ての親
生まれた家で父からの虐待を受け続け、逃げるように飛び出した先がたまたま盗賊稼業であったという話だった。作中では父の虐待の理由を、狐に憑りつかれて気がふれたとしているが、いつの世にも育児放棄や虐待はあったと思うのだ。確かに盗賊は悪だろう。
しかし虐待をする親から子を守り、親身に育てたという側面から見たならば、ただの悪者と一緒くたにするのは違和感がある。子としては、育ててくれた親に恩義を感じるのは当然で、親も子を気に掛けるのは当然だろうな。ちょっとしたボタンの掛け違いから、切ないストーリーになってしまったと思うのだ。
親が子を愛し、子が親を愛せる、これをごく当たり前に思える事に感謝せねばならんな。青木が狐に憑りつかれてストーリーが進行していくが、鬼平の言う通り狂言だったのか、それとも狐が魂の浄化へと導いたのか、捉え方によって大きく意味が異なってくる点も面白いぞ。さて、読者の皆さんはこのストーリーをどのように捉えるだろうか。
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滝田 莞爾
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