この記事の目次
簡単なあらすじ
ワイド版第52巻収録。辰蔵の剣友・入江長八郎の兄である、金子栄之助が同僚に切り殺されるという事件が発生。辰蔵は長八郎とともに犯人の坂田彦蔵をさがす。聞き込みの最中、浮かび上がったのは金子栄之助に関する”ある疑惑”だった……。
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辰蔵と剣術
長谷川平蔵の嫡男辰蔵は少しだけ女性に弱く、悪所通いのために小遣いをねだる事もしばしば。それでも剣術の修行を重ねて、以前に比べると剣術の腕は相当上がったと思われるぞ。
辰蔵が稽古に励む坪井道場を舞台にしたエピソードは数多くあり、『女武道』『よろいびつ』などに代表される作品でも痛快アクション劇として楽しむ事が出来るだろう。
本作も坪井道場を取り巻くストーリーで、他流試合のライバルから友人になった長八郎との関係を描いている。仲睦まじい長八郎と兄の間柄ではあったが、兄の持つ秘密とは何だったのだろうか。
坪井道場と地理
念流の達人、坪井主水が道場主の坪井道場は市ヶ谷にあるとされる。火盗改メの役宅が現在の九段下近辺にある事から、すぐ隣に位置している訳だな。なので辰蔵は稽古帰りに役宅へ行っては小遣いをせびっていたという事になる。
懐が暖かい時には役宅へ寄らずに神楽坂へ直行したりと、きっと稽古帰りの寄り道で遊んでいたのだろう。辰蔵が留守を預かっている長谷川平蔵の私邸は目白台にあるので、市ヶ谷から神楽坂そして目白台のコースは合理的なのだ。
崇高な剣士がゆえに
兄の仇である坂田が現れた際、その首を刎ねてしまえば長八郎にとっては万事解決のはずである。しかし慕っていた兄が盗賊一味である事を知らされていた長八郎は、最も分かり易い方法を選ばなかったのだ。
長八郎の心情を察すると、優れた剣士であるが故に兄への想いが複雑に入り混じっていたのだろう。曲がった事を是としない剣士としての心持ちと、自らを気に掛けてくれた兄の優しさに感謝する気持ちとの葛藤だな。葛藤という物は時として、人の精神を破壊する事があるかもしれない。
長十郎の怒りと絶望、そして悲しみの入り混じった感情はどこに向けるかも分からなかったのだ。こうして幕を閉じるバッドエンドに近いストーリーではあるが、仇を追う剣客のストーリーとしては非常にテンポが良く面白いぞ。本懐を遂げる事の出来なかった者が、その後どのような人生を歩むのかを知っていれば更に楽しめるだろう。
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滝田 莞爾

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