この記事の目次
簡単なあらすじ
ワイド版第36巻収録。辰蔵が通う坪井道場に、御書院御番頭を務める安藤定意の嫡男・新之介が入門した。新之助の父・定意は、大阪・夏の陣で手柄をたてた家柄であることをかさに、威張ること威張ること。しかし、その定意の破廉恥な所業の数々が明るみに出て……。武家のモラルを問う異色作。
スポンサーリンク
どんちゃん騒ぎもほどほどに
坪井道場にて修行を続ける辰蔵に稽古仲間の悪友、弥太郎が着いて回るのはいつもの事だ。新しく坪井道場に入門したのは大身旗本の息子、新之介。弥太郎は辰蔵より2-3歳年上との事だが、新之介を見た感じでは辰蔵よりも若いようだな。さて、新年に新之介宅にお呼ばれをした二人、大身旗本の武家屋敷などお構いなしに羽目を外して大騒ぎ。
運悪く帰宅した殿様からは嫌みも言われ、こっぴどく叱られてしまう。かなり厳しく叱られた辰蔵だったが、それでも冷静に対応している辺りには大きな成長が見られるのではないだろうか。遊びを知らない新之介に大人の世界を教えるのは、やはり弥太郎だ。新しい世界を知った新之介が引き起こす事件から本作は進んでいくぞ。
武門の心持ち
江戸時代の武家は非常に格式が高く、旗本ともなれば身分が高いのだ。平蔵の長谷川家が四百石である事から、新之介の家が三千石ともなれば、それは家を守る側面からも大きな責任が出てくる事は想像に難くないぞ。将軍の家来として高い身分があるのだから、例えプライベートであっても清廉潔白でなくてはならない。
武門の恥を晒す事なく、高い矜持を以て生きる事こそが武家の生き様とは言えるのだが、そこは人間らしさがどうしても出てきてしまうのだろう。現代でも強面の上司が実はセクハラ上司だった、なんて話はよく聞くな。立場を利用したパワハラとも言える訳だが、そのような行為はまさに武門の恥だ。辰蔵を厳しく叱った殿様の姿と、ハラスメント行為を断じた鬼平の姿とで、我々が大切にしなくてはならない殿様の姿が対比されているのではなかろうか。
皆さんの鎧櫃の中
新之介の厳格な父親、裏の顔は鎧櫃の中に隠された“お宝”から見える訳だが、時代劇によく見るシチュエーションだと思うのだ。殿様を利用して用人の妻に言い寄るとは、卑劣だと感じてしまった。しかし当の用人が妻に対して、一度くらいは許せと懇願する姿勢には呆れて物が言えないだろう。妻の気持ちを想像すると、情けない気持ちになってくるぞ。
同じことを現実で行ったならば、やはり三行半を突き付けられるだろうな。武家のプライドも大切だが、やはり人としての気持ちはそれよりも大きいと感じたストーリーだ。皆さんも心の中に鎧櫃を持っていると思うが、中にはどんな物を隠しているのだろうか。出来れば他人に見られても恥ずかしくない物をしまってほしいものだ。まるでパンドラの箱の様に、開けてもきちんと最後には希望が残る事を願うぞ。
この作品が読める書籍はこちら
滝田 莞爾
最新記事 by 滝田 莞爾 (全て見る)
- 鬼平犯科帳 漫画:第265話『同門の宴』のみどころ - 2022年9月9日
- 鬼平犯科帳 漫画:第48話『おしま金三郎』のみどころ - 2022年9月5日
- 鬼平犯科帳 漫画:第67話『殺しの波紋』のみどころ - 2022年9月1日