簡単なあらすじ
ワイド版第27巻収録。四年前、御用聞きの政蔵を殺害して逃げた洲走の熊五郎が、護送中の盗賊・山猫の三次を奪還してみせると予告してきた。護送の最中、平蔵は政蔵の妻・お延が営む茶店に顔をだし、熊五郎の人相書きをみせる。それを見たお延は仰天。そこには、最近わりない仲となった男の顔が描かれていた……。
スポンサーリンク
痛恨の捕縛失敗
盗賊は何も江戸に潜んでいるばかりではなく、時として地方に散らばって息を潜めている。上州は沼田藩が盗賊を捕縛すべく乗り込むものの、二人のうち一人を逃がしてしまうのだ。捕縛した一人の盗賊を江戸に運搬する際に、護衛として火盗改メに協力を願った訳だな。
しかし逃げた盗賊は、鬼平とも過去に因縁のある盗賊だった。鬼平の手下として働いていた御用聞きの政蔵。その命を奪った盗賊こそが逃げた盗賊、洲走の熊五郎だ。政蔵の残された妻子の為にも、鬼平自らが出張って熊五郎を追う。果たして鬼平の策略は成功するのだろうか。
怪盗、雲霧仁左衛門
作品冒頭の捕り物で御用となった盗賊、山猫三次は雲霧仁左衛門の手下だとある。ところが佐嶋与力の言う通り年代と符合しないあたり、騙りではないかという鬼平の読みも鋭いな。雲霧仁左衛門は本格の盗賊で、実は鬼平犯科帳と同じ原作者、池波正太郎が雲霧仁左衛門という作品を残しているのだ。それが故に本作でも雲霧仁左衛門の名前が出たものと思われる。
雲霧一味が活躍したのは江戸の中期ころ、当時の火盗改メ長官は安部式部という人物だったそうな。鬼平が活躍したのは江戸の後期になるから、時代的にもだいぶ離れているな。さて雲霧仁左衛門の本性だが、架空の盗賊で作りものではないかという説もあるのだ。講談や歌舞伎の演題として有名となったのだが、真相はまさに雲霧の中という訳だな。
自責の念
夫の政蔵に先立たれ、未亡人として子を育てながらも懸命に生きる事は大変な事だ。魅力的な男性と出会えば、一たび恋に落ちる事も不思議ではない。商人の信太郎と恋に落ち情を交わしたものの、鬼平の持つ人相書は明らかに信太郎そのものだった。仇である男に肌身を許した自責の念。
死ぬ事も叶わず、ただひたすら自責の念と懐疑心に悩むお延。鬼平の活躍によってお延の行く末は明暗どちらに転ぶだろうか。心理描写の光る作品に仕上がっているぞ。興味を持った方にはぜひお勧めしたい作品だ。
この作品が読める書籍はこちら

滝田 莞爾

最新記事 by 滝田 莞爾 (全て見る)
- 鬼平犯科帳 漫画:第265話『同門の宴』のみどころ - 2022年9月9日
- 鬼平犯科帳 漫画:第48話『おしま金三郎』のみどころ - 2022年9月5日
- 鬼平犯科帳 漫画:第67話『殺しの波紋』のみどころ - 2022年9月1日