簡単なあらすじ
ワイド版第4巻収録。筆頭与力の佐嶋の密偵・弥市。いまは火盗改方の密偵となっているが、それを知らない昔の盗賊仲間が仕事をもちかける。黒幕の縄ぬけの源七の居所をつかみ、佐嶋に知らせようとする弥市だったが……。
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理想の中間管理職
自分には仕事のストレスというのは、半分以上が人間関係に由来するものだという持論がある。こんな人間の下で働ければ胸がすくだろうな、と平蔵に対して思うが、ストレス少なく働けそうなのは佐嶋忠介の下だと思う。
有能でありながら人柄が穏やかで、ボスの下にこんな人間がいてくれれば仕事がしやすいだろうなと鬼平犯科帳を読んでいて思わせられることもしばしばだ。
仕事に対して真摯な姿勢を貫きながら、人間味があって親しみやすい彼を嫌いという読者はそうはいないのではないか。佐嶋という男は理想の中間管理職のひとりだと思っている。

人は変われるが他人は変えられない
弥市は昔こそ青坊主の弥市と呼ばれる盗賊の末端だったが、佐嶋と出会い、盗みの世界から足を洗った。一膳めし屋を切り盛りしながら佐嶋の密偵として暮らしていた。
弥市はまったくの堅気となり、まさに生まれ変わったかのように妻と懸命にまっとうに暮らしていた。しかし昔の盗賊仲間と偶然出会い、憎しみの刃を受け絶命してしまう。人は何歳でも、過去に何があっても変わることができると私は信じている。
しかし同時に他人を変えることは不可能だ。今も盗賊として生きる縄抜けの源七や乙坂の庄五郎と再び出会ってしまったのが運の尽きだった……とまとめるには、あまりに切ない終わり方だ。
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大捕物の光と影
劇画版は登場人物の表情が良い。特にこの話ではラストの表情やせりふの対比が秀逸だ。鬼平率いる火付盗賊改方の活躍に、夜中の街かどが一気に色めき立つ。
深夜、寝巻のまま出てきた人々が寒さで懐に手を入れながら、火付盗賊改方と盗賊たちを遠巻きに眺める。恐ろしいと言いながら、とんだよいものとも言い、不安と楽しみを同時に味わっているのが表情から伺える。
対して駆けつけてきた佐嶋は弥市の訃報を聞き顔色を変える。遺体を見つめる表情は深い悲しみを隠すことが無い。もちろん原作でも辛い場面なのだが、劇画版の佐嶋の表情は特に胸を打つ。

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大科 友美

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