この記事の目次
簡単なあらすじ
ワイド版第53巻収録。魚屋の弥吉に可愛がってもらった伊勢屋の黒助(猫)は、弥吉が病に倒れると、恩返しとばかりに店の小判をくわえて弥吉のもとに届ける。しかし、それがバレて殺されてしまう黒助。一方、難航していた捜査を進展させたのは、黒助が小判を持ち出した際、包んでいた紙だった……。
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動物の恩返し
古くから民話や神話に伝わるジャンルとしては、動物と人間との関係を描いたものがある。とりわけ人気が高い物は、動物に対する情愛が人間へと返ってくるお話、つまり恩返しの類だろう。
虐められている動物を助ける、怪我をした動物を救うなど、シチュエーションは様々だ。本作は黒猫の黒助が、情を掛けてくれる弥吉に対する恩返しストーリーとして見ると分かり易いぞ。時として人知を超えた不思議な能力を持つと言われる猫だが、黒助はどのような方法で弥吉に恩返しをするのだろうか。
鬼平犯科帳の世界観で描かれた、まさに猫の恩返し。言葉を発さない猫と遊び人との不思議な結びつき、動物に対する愛情が上手く表現されているぞ。その点から見ても、本作は名作と言っても過言は無いだろう。
江戸時代の独身男
いい歳をして遊びに本気な男性として描写される弥吉、猫にも人にも優しいけれど遊び人なのが玉に瑕といったところか。現代人のイメージからすると、江戸時代は多くの男性が結婚をして家を大切にしていた、と思われがちだ。しかし江戸市民の男女比を見てみると分かる事があるぞ。
男性32万人に対して女性17万人というデータが存在するのだが、圧倒的に女性が少ない。つまり江戸時代の独身男性という物は特別な存在ではなく、ごくごく当たり前にいたと推測できるのだ。
今も昔も独身男性が熱を上げる物と言えば、食事と酒、女性、更にはギャンブルではなかろうか。その視点から見ると江戸時代に花開いた様々な庶民文化は、独身男性が好む傾向にあったとも言えるのだ。否、独身男性をメインターゲットに据えた商売ほど儲かったのかもしれないな。
宵越しの銭は持たない
店先で酒を引っ掛けて、女性と遊んで、博打ですってんてん。たくさん飯を食って遊びに遊んで、そして一日の仕事を頑張る。“べらんめぇ、宵越しの銭は持たねぇぜ”江戸っ子を語る時にこのようなエピソードを聞く事はないだろうか。気風の良さと粋な生き様を示した言葉として捉えられているかもしれない。
まさに江戸っ子らしい弥吉も、所帯を持って身を固めたならば遊び三昧の日々は終わる事に。命の恩猫ともいえる黒助は、きっと弥吉の子として大切に育てられるだろう。終幕の描写は涙が自然と溢れてくる方がいるかもしれない。非常にストーリーとして綺麗に纏まっている、お勧めの作品に仕上がっているぞ。
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滝田 莞爾
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