この記事の目次
簡単なあらすじ
ワイド版第54巻収録。前話『雪の朝』からの続編。吉蔵こと堀辰蔵の転落人生と、お道の父親が殺害された事件の秘密がすべて明かされている。盗賊団の捕り物などの話は出てこないが、人と人との不思議な縁を描いた読みごたえのあるエピソード。
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数奇な運命
本作は若松屋に救われた行き倒れ男のストーリー、『雪の朝』からの続編だ。吉蔵と名乗った老人の過去と本当の姿が描かれた本作では、前作で多く残った疑問に対するアンサーストーリーともなっているのだ。
なぜ2度目の殺人現場となった妾宅にて、気を失ったお道が殺されずに済んだのか。色々と釈然としなかった場面にも理由がつけられていて、納得の出来る一本だと思う。本当の名を堀辰蔵という老人の生き様を描いた回顧ストーリーだ。生涯を通じての、お道との縁。その数奇な運命を読み解きたいのであれば、ぜひ前作を読む事をお勧めするぞ。
殺し屋としての生き方
敵討ちで長い旅に出る事となった堀辰蔵ではあったが、実際のところはと言えば敵討ちの成功率は物凄く低いもので、本懐を遂げて郷里に戻る者は少なかったと言われるのだ。貧困にあえぐ堀辰蔵が闇の世界へ入るきっかけは、まさにお道の父親を殺害した事に始まった。
きっと武士としての心持ちと、貧困状態にある自らのギャップに苦しんでいたと思うのだ。それが故にほんの少し向けられた悪意こそが、堀辰蔵にとっては凶刃を仕向けるほどに大きなダメージとなったのだろう。殺し屋として生きる事になった堀辰蔵のストーリーは『仕掛人 藤枝梅安』やドラマの必殺シリーズが好きな人ならば楽しめると思うぞ。
本作に名前だけ登場する“大坂の白子屋”は、藤枝梅安と死闘を繰り広げた白子屋菊右衛門と考えるのが妥当だろう。白子屋は『仕掛人 藤枝梅安』の作中では、悪の総大将と言っても過言ではないほどに重要な登場人物なのだ。名前だけでも憶えておくと、他作品を楽しむきっかけになるかもしれないな。
今わの際での心持ち
一度踏み入れたならば、決して抜ける事の出来ない殺し屋稼業。しかし堀辰蔵の生涯における最後の戦いは、金を受け取っての殺しでは無かったのだ。行き倒れの自分を救ってくれたお道と、その家族に対する恩義から取った行動は、まさに義侠心が成せる物だったかもしれないな。
人は誰しも死せば仏になるという。仏になる寸前こそが今わの際なのだろうか。堀辰蔵の生涯は血にまみれ、闇に生きるものではあったが、最期は誰かの血に染まった訳ではない。
涙ながらに感謝するお道にも見送られ、きっと堀辰蔵の心は闇から解放されたのではなかろうか、そう思うのだ。真実を全て伝える事も無く、皆に見守られて死んだ堀辰蔵だ。殺し屋の最期として、これ以上ない終わり方かもしれないな。
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滝田 莞爾
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