この記事の目次
簡単なあらすじ
ワイド版第1巻収録。引退を考えていた老盗・蓑火の喜之助。が、とある茶屋で亡き妻・お千代に似た女、おとよに出会ったことで引退を撤回。おとよとの甘い生活を夢見て江戸に舞い戻った喜之助は、一攫千金を狙いろうそく問屋を狙うが……。
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本格盗めの三カ条
『血頭の丹兵衛』で急ぎ盗と本格盗めについて書いたが、この回で粂八が本格盗めには守るべき三カ条があると語る。
- 盗まれて難儀する者へは手を出すまじき事
- 人を殺生せぬ事
- 女を手ごめにせぬ事
まさに晩年の血頭の丹兵衛の仕事ぶりとは正反対だが、この三カ条を最期まで守り通したのが今回登場する蓑火の喜之助だ。その仕事ぶりを聞いた岸井左馬之助が「盗賊にしておくにゃ、惜しい奴だな!」と褒め、平蔵からたしなめられるほどだ。
とはいえ左馬之助の言葉も頷ける。盗み自体は今も昔も犯罪だが、そこに美学があれば盗賊仕事でもプロフェッショナルたりえるのではとすら思えてくる。
恋は男を狂わせる?
堅実とすらいえる蓑火の喜之助はすっかり盗みを辞め、畳の上で死に、二十年前に死に別れた女房と同じ墓に入ろうと京に戻る。しかし偶然女房とそっくりの若い大女と出会い、入れ込んでしまったがために盗みの道に戻り、結果命まで落としてしまう。
しかし大女はもう喜之助のことなど忘れ、他の男との逢瀬に夢中になっているという切ない終わりが描かれる。惚れこんだせいで人生が狂うという展開はこの回に限らないのだが、ここまで真面目に本格の盗賊稼業を貫いてきた蓑火の喜之助の最期がこれかと思うと切なすぎて読後ため息しか出ない、と長年私は思っていた。
だが他の鬼平ファンの男性に聞くと「喜之助の気持ちは判らなくもない」「夢を見られて幸せな最期ともいえる」という感想が少なからず聞こえた。恋は男を狂わせるものなのかもしれない。
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劇画の本領はエロティックにあり
劇画版では心通わせた男女の営みがたびたび登場する。これが本当にエロティックで目を惹くのだ。アダルト漫画のように過度に見せつけるでなく、かといって営み自体を隠しはしない。
世の中に男と女がいれば、否、人間同士がいれば、どこかで恋が生まれ、恋が生まれれば心だけでなく身体でも繋がりを深めようとする。それは自然なことだ。劇画版の描写は人間の自然な作用として男女の営みを描いているように見受けられる。
官能的だがどこか芸術的で、まるで春画のような雰囲気がある。原作も登場人物の人間味があふれているが、劇画では加えてこのエロティシズムが適度なスパイスになっていると考えている。
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大科 友美
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