この記事の目次
簡単なあらすじ
ワイド版第7巻収録。夜鷹ばかりを狙った殺人事件が発生。夜鷹殺しを礼賛する奉行所に激怒した平蔵は、おまさを使っておとり捜査を開始。釣られて出てきた犯人と対決するが、犯人がとった構えはなんと、柳生流・八双の構えだった……。
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夜鷹を狙う凶刃
江戸時代には女性がその身を売って生計を立てている人も多数いた。幕府公認の遊郭として吉原の名は有名ではあるが、それ以外の場所で売春が盛んであった事も史実として把握しておく事は大切だろう。
吉原以外で売春がされる土地を岡場所と呼んだ。これは傍目八目で使われる“傍”、つまりここでは吉原以外を指し示す傍場所から岡場所という表記になったと考えるべきだろうか。時代小説には飯盛女や宿場女郎といった表現で登場する娼婦もいるのだが、食売女(めしうりおんな)の表現が正しいようだ。
さて、そのように管理売春をしていた女性以外にも私娼と呼ばれる女性も多くいたようで、本作に登場する夜鷹も私娼の一つと言えるだろう。商売柄、人目に触れる事の少ない女性だけをターゲットにして惨殺していく凶悪犯の素性とは一体。密偵おまさの囮捜査が繰り広げる凶悪犯の追い込みが見どころだ。
御留流としての柳生流
囮のおまさが夜鷹殺しの手に掛かる寸でで鬼平がその凶刃を食い止める訳だが、その構えが柳生流であった事から犯人の素性を知るヒントに繋がった。柳生流とは作中に解説がある通り剣術流派の一つなので、その話を広げてみよう。
江戸時代に様々な藩で武術の形態が確立して行った際に、その稽古や技術を他人に見せる事を禁じていた流派があるとされる。そのような流派の事を藩内で留める、つまり御留流(おとめりゅう)と称される事があるぞ。
しかし江戸時代の文献には“御留流”という言葉はなく、一説には御留流そのものが存在しなかったという話まである。本作に登場する柳生流も、しばしば御留流と表現される事があるのだが、その真実は定かではない。
ただし熊本藩は藩命として柳生流の他流試合や、柳生流の稽古を他流に見せない事を定めていたようなので、そのあたりから御留流へとつながった可能性もあるだろう。武術に限らずとも門外不出の技術、一子相伝の技能など、読者にとっては魅力的な世界を広げる要素にはなっている。謎は謎のまま、秘伝は秘伝のまま私たち読者が各々に解釈する事が楽しむ秘訣かもしれない。
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悲しき犯人の素性
武家の跡取り息子として誇りをもって育ててきたにも関わらず、その育て方が子供からは大きな反発として返ってきたのであろうか。親に対する最後の反抗として、こともあろうに岡場所の女郎と心中を遂げたとあらば、お家取り潰しも必定かもしれない。
跡取り息子に死なれ自らの老い先まで見据えざるを得なくなった幕臣が、その逆恨みとして夜鷹を惨殺していたという背景、非常に良く練られているとは思わないだろうか。
このように登場人物の背景や悪者の素性までも、しっかりと練られて考察がなされている事も、鬼平犯科帳が人気のある作品である理由だと思う。江戸時代の文化や武家の心持ちまでをも描く鬼平犯科帳ワールドだ。もしご興味を持ったならば、読み始めるには良いタイミングかもしれないぞ。
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滝田 莞爾
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