この記事の目次
簡単なあらすじ
ワイド版第10巻収録。剣友・内山精之進と、ひさびさに食事処へ訪れた平蔵と左馬之助。しかし女中のお粂を見た精之進は、数日前に金貸し・大口屋を襲った盗賊団の引き込み女・お絹に酷似していると証言する……。平蔵の息子・辰蔵と、精之進の息子・英明が対決するシーンも見もの。
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剣術から繋がる物語
店の者が殺害され、女房が手籠めにされている事から兇賊の所業と思いきや、本格の仕業と思われる用意周到な盗みである事も判明してくる事件が発端のストーリーだ。
長い時間を掛けて引き込みを入れてからの押し込みは本格の手口。捜査の手が伸びた時には、既に盗賊の影が見えない点は本格ならではだろう。しかし店の者に危害を加えるのは兇賊の手口。
この掛け違いが事件を解決へと導くヒントとなった訳だな。平蔵と左馬之助が若かりし頃に修行をした高杉道場の同門、あだ名を“尺取り精之進”という貧乏旗本と久しぶりに再会した二人。
三人で久方ぶりに酒を酌み交わした料理屋の女中が、なんと精之進が以前に見た事のある女性であった。全く姿形の見えなかった盗賊たちの影を捉えた、平蔵以下火盗改メの捕縛劇が幕を開けるのだ。
本格の盗賊
極悪非道な盗賊を兇賊と呼称するが、ルール無用の外道に対して掟を守る盗賊の事を“本格”と呼んでいるのだ。これは小説上の造語として考えると良いだろう。
しかし鬼平犯科帳では本格の盗賊と兇賊との対比がストーリーの軸となっている事も多く、ともすれば盗賊礼賛とも思われるほどの礼賛がある所も楽しみの一つなのだ。本格は盗人の掟三ヵ条を信条として、その理念のもとに盗みをしているぞ。
- 一つ、殺生をせぬ事
- 一つ、盗まれて難儀する者へは手を出さぬ事
- 一つ、女を手ごめにせぬ事
この掟を忠実に守らねば本格とは言えない訳だ。鬼平犯科帳には本格の盗賊も多数登場する。鬼畜働きに対して本格のおつとめ、これを覚えておけば鬼平犯科帳を更に楽しめるだろう。
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上辺だけの本格
お粂との祝言を挙げるべく集まった盗賊たちではあったが、小女を殺し店の女房を手籠めにする凶行をしたにも関わらず、自らを本格の盗賊と謳っているようだ。
手下が本格の掟を破った際にその手下を追放する事もあれば、自らが頭としての責任を取る形で出頭するなど、本格の生き様は鬼平犯科帳の世界でも確たる物となっている。
本格の生き様を描いた作品は多数あるのだが、実際に手下が掟を破った後のストーリーが軸となっている物としては、二代目夜兎の角右衛門の登場する『白浪看板』、大滝の五郎蔵の登場する『五月闇』などがあるぞ。両作品ともに本格の生き様を感じ取るには、非常に適した良い作品だろう。
その点から見ても、二代目傘山の弥兵衛は本格を気取ってはいたが、性根まで本格の盗賊という訳にはいかなかったのだな。本格の矜持を失った盗賊に対して、鬼平はどのような裁きを下すのかも見どころの作品だぞ。
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滝田 莞爾

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