この記事の目次
簡単なあらすじ
ワイド版第50巻収録。筆頭老中・松平伊豆守が襲撃をうける事件が発生し、賊を捜索するよう指令をうけた平蔵。襲撃の際、賊が「天誅!」と叫んでいたことから、幕政に不満をもつ者という線で捜査を開始する。背景には関が原合戦において東軍に寝返り、その後、家康に裏切られた長州萩藩・毛利家の陰謀が隠されていた……。
火事と喧嘩は江戸の花
江戸時代にはガスや電気などは存在せず、灯りを取るためには火を扱うしかなかった時代だ。更に木造建築の長屋で構成されていた為に、それは火事が多かったと伝えられるのだ。江戸では火事と喧嘩が日常的に見られたということわざだな。
もちろん鬼平犯科帳にも火事や火消しに関するエピソードが登場する。『火事場の狐』『火消し源助』などの作品でも火消しが作品の中核をなしているのだ。定火消と町火消の違いもありはするが、それほど江戸時代と火消しの関係は深かったと言えるだろう。
本作は火消しの弥吉が梯子乗りの練習中に見た物事から事件に発展する。弥吉が梯子の上から眺めた景色には何があったのか、謎解き要素もある本作は見どころが多いのでお勧めの一作となっている。
いろは四十八組
弥吉ら火消人足が着ている半纏には背中に“大”の字が描かれているが、れ組の纏の文様と同一であり、組の象徴ともいえる文様でもあったのだ。火災が発生した時には纏持ちが屋根に登って纏を大きく振るう。
その纏を目印にして、火消人足たちが延焼を防ぐべく周囲の家屋を破壊して行ったのだな。江戸時代は木造建築の家屋がほとんどなので、火災が広がり易いという特徴があった。消火方法は家屋の破壊である為に、建築の知識や道具の熟練といった視点から鳶が町火消の主力を占めたそうだ。
れ組は九番組に所属しており、享保5年8月には人足225人と比較的大所帯だ。担当していた地域は根津、池之端、千駄木の近辺で、今も谷根千散歩などの人気の界隈と重なるぞ。江戸時代の火消しの活躍をイメージしながらの散歩ってのも、またお洒落かもしれないな。
江戸に足を向けて寝ていた?
作品に登場する萩藩毛利家では、正月儀式として徳川家討伐の機会を伺っていたという描写がなされている。どの程度まで信ぴょう性があるのか難しい話ではあり、一説によると民話や世間話から尾ひれがついた物語ではないか、という論拠もある。
ただし様々な表現方法にて萩藩と幕府の関係性は伝え残っていて、たとえば萩藩士は江戸に対して足を向けて寝なければならない、などの逸話も残っているのだ。
確たる出所が掴めなかったので、あくまで物語として伝わっていると記述した訳だが、そのような逸話が本作の事件の発端になっている事は間違いないのだ。詳細については作品を読んで頂ければ把握出来るだろう。はたして元萩藩士の起こした事件と、その結末はいかに。
この作品が読める書籍はこちら
滝田 莞爾
最新記事 by 滝田 莞爾 (全て見る)
- 鬼平犯科帳 漫画:第265話『同門の宴』のみどころ - 2022年9月9日
- 鬼平犯科帳 漫画:第48話『おしま金三郎』のみどころ - 2022年9月5日
- 鬼平犯科帳 漫画:第67話『殺しの波紋』のみどころ - 2022年9月1日