この記事の目次
簡単なあらすじ
ワイド版第4巻収録。第三巻「谷中・いろは茶屋」でお松に熱をあげた忠吾が、こんどは足袋屋の娘・お雪に入れ込む。お雪と結婚の約束を交わし、平蔵に仲人を頼む忠吾。しかし、その話を聞いたお雪の叔父・善四郎は猛反対。善四郎が火盗改方を避ける理由とは……?
スポンサーリンク
命がけの恋とは何なのか
商人の娘だというお雪と恋に落ちた木村忠吾、実はその娘は本人も知らなかったが鈴鹿の又兵衛なる大盗賊の一人娘だった。先にオチを言ってしまえば、鈴鹿の又兵衛は鬼平から捕らえられ、忠吾はお雪との恋をすっぱり諦める。
あまりの潔さに平蔵や先輩同心は驚きさえ見せ、自分たちの若いころとは違うと苦笑いする。命がけの恋ではなかったと言われても忠吾の心には響かないのが物悲しい。鬼平犯科帳では愛欲と恋がたびたび話の基幹になる。
なかには確かに命がけとしか言えない、身分も何もかもを投げ打つような恋をしている男女がいる。しかしそのふたりの行く末が幸せかどうかはそれぞれだ。忠吾は確かに淋しい選択をしたが、それは間違いでも正解でもないのだろう。
お雪の行く末はどうなったのか
陰から鈴鹿の又兵衛が見守るなか、お雪と鴨田の善吉は小田原へと向かった。お雪のその後は作中では書かれない。
お雪は自分の父親の正体を知るのか、その時に忠吾への気持ちはどうやって折り合いをつけ、そしてその後どう生きるのか。もちろんそこまで描くことは鬼平犯科帳の本筋ではないのだが、忠吾以上に切ない立場のお雪の行く末に想像を巡らせてしまう。
しかも今回の話では最初のチンピラ以外、皆がお雪の幸せをそれぞれに願っているのだからやるせない。鴨田の善吉が上手くことを進めて、幸せに一介の商人の娘として暮らしてほしいと願わずにいられない。
スポンサーリンク
盗賊たちは器用貧乏?
鴨田の善吉は盗賊だったが鈴鹿の又兵衛の願いで足を洗い、足袋屋の主人となった。小房の粂八は密偵となり、船宿の亭主をしながら偵察の際には流し売りなどさまざまな姿に変装する。
彼らに限らず、登場する盗賊たちは盗み一辺倒ということが少ないのだ。本格盗めの盗賊たちならなおの事だ。現代以上に身分や出自が重要だったであろう江戸時代では、生まれが不遇だった者は生きるために盗みに身を落とすしかなかったのかもしれない。
しかし登場する盗賊たちの器用さを見ると、これなら初めからまっとうに生きる道もあったのではないかと思わずにはいられない。
この作品が読める書籍はこちら
大科 友美
最新記事 by 大科 友美 (全て見る)
- ゴルゴ13:第435話『地上の太陽』のみどころ - 2024年7月28日
- ゴルゴ13:第429話『真のベルリン市民』のみどころ - 2024年7月21日
- ゴルゴ13:増刊第73話『ピンヘッド・シュート』のみどころ - 2024年4月24日