この記事の目次
簡単なあらすじ
ワイド版第1巻収録。極悪非道の限りを尽くし、犯行現場には必ず盗賊改方への挑戦状(木札)を残す血頭丹兵衛一味。しかし粂八の情報では、その男は丹兵衛のニセモノだという。なぜ粂八はニセモノだと考えたのか?そしてニセモノの正体とは……?
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漢たちが惚れた盗賊の末路
老害というフレーズがある。もともとネットスラングだが、次第に現実のメディアでもぽつぽつ聞かれるようになってきている。血頭の丹兵衛は若かりし頃は本格盗めの立派な盗人だった。
それが年を取り、盗賊の風上にも置けぬ急ぎ盗ばかりをするようになった盗賊だ。まさに老害そのものの姿だ。若いころ血頭の丹兵衛の手下として本格盗めを学んだ粂八は、破門されたあとも恨むどころか血頭の丹兵衛に心酔している。
終盤で登場する老盗賊は引退していたにも関わらず血頭の丹兵衛の名誉のために盗みのまねごとをしたのだと告白する。若かりし頃の血頭の丹兵衛は、多くの漢が惚れこむような一本筋の通った仕事ぶりだったことは確かなのだろう。

この時代、江戸では何が起こっていたのか
血頭の丹兵衛が粂八を破門してからの15年、何があったのか詳しいことは描かれない。ただ、実はこの回に限らず本格盗めから急ぎ盗に転向する盗賊が何人か登場する。彼らが口を揃えて言うのは、世の中が変わった、急ぎ盗で他人を蹴落としてでも財を得なければならない、という内容だ。
平蔵が火付盗賊改に就任する数年前は田沼意次公が江戸老中を勤めていた。田沼公の政策は現代でいうと資本主義的な考えに基づいていて、江戸商人の財力が強化された反面、都市部の治安が急激に悪化していた。血頭の丹兵衛は実在の盗賊ではないが、この時代背景を考えると彼の変化もうなずけよう。
とはいえ、粂八など以前の丹兵衛を知る人間からすればその変わりようは許しがたいものだったろう。鬼平に捕らえられた血頭の丹兵衛に粂八は唾を吐き返し、涙ながらに叫ぶ。「俺が胸のうちにしまってある血頭の丹兵衛は、手前のようにうす汚ねえ野郎じゃねぇ!」
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急ぎ盗、本格盗め
ところで作中では盗賊の仕事ぶりは大きく2種類に分かれている。急ぎ盗と本格盗めだ。それぞれの説明をしておく。
- 急ぎ盗 … 所謂押し込み強盗。強引に押し入り、口封じのため商人やその妻子、下男下女まで皆殺しにする。女性相手には暴行をすることもある。盗みにかける準備期間は非常に短い。
- 本格盗め … 誰一人手にかけず、もちろん暴行もせず、ただ金品だけを盗み取る。数年の歳月をかけて家の間取りや蔵の錠前、家族構成などを調べてから盗みを行う。
この単語は原作者池波正太郎の造語で、歴史上の書物などに根拠があるものではない。ただ、平蔵の時代に押し入り強盗が頻発していたのは史実だ。

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大科 友美

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