この記事の目次
簡単なあらすじ
ワイド版第5巻収録。幕閣より休暇をもらい、忠吾を引き連れて京へと旅立った平蔵。その道中、善八という老人に出会う。善八はひとり働き専門の凄腕泥棒で、平蔵の人柄を見込んで自分の後継者として育てようとするが……。鬼平が実際に盗みに加担するレアなエピソード。
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平蔵、盗賊になる
お役目を一時的に解かれている最中のこととはいえ、平蔵が比喩ではなく盗賊となった回だ。妙な縁で老盗賊から見込まれた平蔵が彼の盗みを手伝うのだ。この老盗賊は堅実に本格盗めを重ねてきた伊砂の善八だった。
いままで一度も捕まったことが無いというのだからよほどの慎重派とうかがえる。最後には平蔵はこの善八を見逃す。平蔵自身も言ってはいるが、自分も盗みを手伝っているのだから、それはそうかもしれない。しかもお役目として善八を捕えるためなどでなく半分以上興味が勝ってのことだ。
原作の池波氏はこの話を自分自身でも気に入っている作品として挙げていた。確かに他の回にはない面白みがある。
本当にありそうな“盗方秘伝”
伊砂の善八が作り上げたという盗方秘伝は作中では初歩だけ挙げられている。その初歩だけで平蔵は「捨て置けぬな」と気持ちを引き締めた。確かに、月の入出時刻や季節にまで気を配る、言われてみれば納得だがなかなか常人は気が付かないような盲点をまとめてある。
この盗方秘伝、当然実在のものではない。だが、書かれている内容が細かく、実在の資料を書いたもののようにすら思える。
平蔵の言葉でいえばまさに「人間心理の虚を突いている」のだ。これを見せられれば確かに盗賊稼業もやりがいのある、いい仕事だと思えるに違いない。実際伊砂の善八は本格盗めに誇りを抱いていたようだ。
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伊砂の善八の財産
伊砂の善八が平蔵に譲り渡そうとした彼の財産とは、お目当て細見という和綴じの冊子だ。これは善八が北は奥州、西は長門までと全国諸国で目をつけた金持ちが32軒記された目録だった。
屋敷の図面のみならず、家風や主人夫婦の性格、奉公人の数まで記してあるというのだから驚きだ。奥州というと江戸時代ではおおよそ東北太平洋側一帯を指すし、長門は今でいう山口県だ。ここまで広い範囲で盗みをしながら、どの土地でも捕まることが無かったというのだから素直に尊敬してしまう。
このお目当て細見は最後には正体を明かした平蔵が没収する。お目当て細見がなくて善八は盗みを辞めただろうか。私はきっと、抜け目ない善八のこと、控えがあったに違いないと思う。ただ、生涯二度と江戸と東海道には近づかなかっただろうが。
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大科 友美
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