この記事の目次
簡単なあらすじ
ワイド版第10巻収録。ある晩、同心の小柳安五郎が身投げから救った母子は、先般捕縛したばかりの盗賊・鹿留の又八の女房と子供だった。平蔵に内緒で又八を牢から逃がした小柳の真意とは?小柳の男気が光る一編。
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小柳安五郎の才覚
同心の小柳が本作の主人公だ。小柳は火盗改メ同心の中でも至って冷静、的確な判断が出来る男として鬼平からの信頼も厚いぞ。小柳の活躍するエピソードとしては、『おしま金三郎』『炎の色』に代表される名作が揃っているのだ。
この段階で小柳の恋愛話をするのは野暮だとは思うが、小柳の背景を本作で知る事で将来的に変わって行く小柳の人生を更に楽しむ事が出来るかもしれないな。
悲しい過去を持つ小柳のストーリーが綴られ、偶然に両国橋から身投げを寸での所で押さえられた母娘。小柳は密偵のおまさに事情聴取を頼む訳だが、先般小柳が捕縛した盗賊、鹿留の又八なる者の女房子供という事が判明したのだ。
鹿留の又八を女房に合わせる目的で牢から又八を連れ出したものの、又八は川へと逃げ込み残念ながら逃亡されてしまう。同心としてあってはならない失態を犯した、小柳に対する処罰も気になる部分だ。
二之橋と五鉄
身投げをしようとして小柳に止められた母娘が連れられてきたのが、軍鶏鍋屋の五鉄だったな。この五鉄、本作では場所の明示はされていないものの、鬼平犯科帳には頻繁に登場する店だ。
密偵たちとの打ち合わせなどに用いられる店なのだが、五鉄の場所は二ツ目のあたり、と標される事が多いぞ。この二ツ目とは堅川という、隅田川から旧中川に掛けて作られた人工河川に掛かる橋の名前から来ているのだ。隅田川から数えて二ツ目の橋で、名前を二之橋と呼ぶ。
現在でも二之橋は現存していて、清澄通りの森下駅と両国駅の中間ほどにある橋が二之橋だ。残念ながら五鉄のモデルとされた軍鶏鍋屋は無くなってしまったが、二之橋たもとには五鉄に関する立て札があるなど、鬼平犯科帳ファンにとっては楽しい散歩コースと言えるだろう。
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本格の盗賊と外道との対比
本格の修行を積み、自らも本格の盗賊として高いプライドを持っていた又八にとって、まさに裏切った紋三郎は許しがたい敵となったのだった。又八が身を挺して役人の囮になったにも関わらず、仲間を見捨てて盗み金を独り占めにするとは言語道断だ。
更に又八の恩人ともいえる叔父を殺めるまでに外道っぷりを披露した紋三郎、ここまでの悪党はそうそう見られないだろう。本格の盗賊が仁義を通すために外道の盗賊と一騎打ちをするシーンは、剣客同士の斬り合いともまた一味違ったアクションシーンで必見だ。
結局のところ、小柳は本作の結末に至るまでの全てを見通して、又八を牢から連れ出したのだろう。鬼平を以てして“あきれた奴”と言わしめた小柳だが、盗賊たちにしてみれば、げに恐ろしい同心としての能力を開花させていたのだな。
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滝田 莞爾
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