この記事の目次
簡単なあらすじ
ワイド版第9巻に収録。その昔、平蔵や左馬之助とともに「高杉道場三羽烏」と呼ばれた剣客・長沼又兵衛が、盗賊となって江戸に舞い戻った。
粂八の働きで押し込みの場所と日取りを掴んだ平蔵は、先手を打って長沼を待ち構える……。ダイナミックな殺陣シーンは必見。
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劇画の定義と劇画版鬼平犯科帳
劇画というと書き込みが多く重厚な絵とシリアスなシナリオというイメージがあるが、実は劇画というジャンルに特別な定義があるわけではない。
ただ、劇画原作者としても名が知られる小池一夫氏はシリアスな絵にシリアスな話、シリアス一辺倒の展開だけでは人を惹き付ける事は出来ないと劇画にこそギャグ、笑いの要素を取り入れる重要性を語っている。
劇画版鬼平犯科帳はその点完璧で、特に連載中期を過ぎるとコミカルな場面、明らかに読者の笑いを取ろうとしている場面がみられる。この回の主線は平蔵の昔馴染みが盗賊に身をやつし、平蔵と刀を交える、といういっそ悲壮感すらあるシリアスさだ。そこに平蔵と忠吾のやりとりなどでクスリと笑える一瞬がある。この笑いもすべて劇画版の醍醐味だろう。

長沼又兵衛のプライドか、良心か
若いころの長沼又兵衛は平蔵や左馬之助と肩を並べるほどに剣の腕が立ったものの、自分の生まれを恨むばかりの男だった。その卑屈さや強い憎しみを見抜かれて通っていた道場の免許皆伝を許されず、逆恨みで一刀流の伝書を盗みそのまま姿をくらます。数十年ののち盗賊に身を落とした長沼は、平蔵が平和を守る江戸へ戻ってきた。
この経歴なら、長沼の盗みは畜生盗めになってもおかしくはない。しかしこれまでは判らないが、少なくとも平蔵の膝元で見せた盗みは引き込みなどを用意しない荒い盗みではあったが、押し入り先の人間は誰一人手にかけていないのだ。
剣を交えた平蔵が「こやつ昔のままだった」と呟くのは、拗ねた心根のことだけなのか。平蔵は長沼の奥底にあった悲哀や人情、プライドをも含めて昔のままだったと言ったように思えてならない。
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暗闇の一閃で迎えるクライマックス
長沼の生家と兄を案じて平蔵は長沼に切腹を勧める。しかし長沼はそれを良しとせず、ろうそくの火を切り落とし、暗闇の中で平蔵と対峙する。一閃、一太刀交えたあと、再び互いが刀を振りかぶる。
長沼の刀は平蔵に届かず、平蔵の刀は長沼を袈裟懸に切り捨てた。腕が落ちたな、と語りかける平蔵。「お、俺の腕が落ちたんじゃねえ……あ、あんたが……腕を上げたんだ……」と言い残し長沼は事切れる。この暗闇のなかの一瞬の激闘は見開き、ページをまたぐ大きなコマで表現されている。大胆で好きな殺陣のひとつだ。
ただ、最近気が付いたのだが、この場面電子書籍で見るとどうしても1ページずつ見ることになってしまって魅力が半減する。もともと電子書籍がメジャーになっていない頃に発表された回なのだ、普段は電子書籍党の諸兄にもぜひペーパーコミックスで見てもらいたい。

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大科 友美

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